野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ホエールトーン形式

ホエールトーン・オペラ体験ワークショップの2日目。

ワークショップの冒頭に、佐々木宏実さんのパートナーのロフィットに特別出演してもらった。持って来た楽器だけで、二人だけでの演奏で、しかも急にやってもらった演奏だったが、とても緊張感のあるいい時間が流れた。

昨日の続き。第1幕の6曲目のバナナケーキをふるまう音楽
ホエールトーン・スケールを使っての演奏。全体は、次の5グループ(鍵盤ハーモニカ群、リコーダー群、打楽器群、鉄琴2人、ヴァイオリン1人)に分かれて演奏。
途中で子どもの一人が、かすかな声で、「ボディーパーカッション」とつぶやいたので、そこからボディーパーカッションをやった。これが、ジャンプとかも入って、ダイエットに最適。「体重減らそう」の曲に来る前に、ダイエットになった。

7曲目のうさぎが体重計を持ってやってくるは、アンクルンを使う曲。全員分のアンクルンがないが、まずは、ある分だけ楽器を渡して、どうやって演奏するかを考えてもらった。楽器を一斉に鳴らしたいが、楽器を持っていない人が退屈してしまう。そこで、楽器を鳴らしながら、隣の人に楽器を受け渡していくことに。これを音が途切れないように回せるか、とやったら、これが、ゲームとしても音としても相当面白かった。サラウンドの空間音楽が実現。せっかくだから、交代で輪の中央で聞いたりもした。

ここで、休憩。休憩中にも、昨日作った「寒いのイヤ」の曲を、ガムラン楽器で演奏する子も現れるし、休憩時間に音楽をしたり、交流できたりする。休憩時間の方が、もっと充実したワークショップになったりする。10分休憩と言ったけど、もっと長めに休憩してもいいか、と思っていたら、子どもの一人が、もう10分たったよ、と親切に教えてくれて、ワークショップ再開。

8曲目の体重減らそうでは、輪唱の歌を作曲しようかと思っていたが、さっきのボディパーカッションで、ダイエットはできたからいいと、子どもたち。そこで、次に進む。

9曲目のやせるためなら踊れやハイハイは、ジャワのスタイルでこれを言って踊りました。みんなで超高音で。

10曲目のニュー民謡は、オリジナルの曲をやってみようかとも思ったのですが、せっかくなので、ニュー民謡をグループごとに作ってもらって、発表してもらった。このあたりで、公開ワークショップの時間が近づいてきたのですが、公開ワークショップの見学の人が来始めるあたりから、子どもたちが、かなりハイテンションになり始めた。

11曲目のどすこいも、子どもたちがグループごとにやりたい、と主張。昨日の最初の頃に、みんな人見知りしてあんなにおとなしかったのに、あれがやりたい、こうしたい、って、すごく主張する。そんなにやりたいなら、とグループ別に「どすこい」を作ってもらった。そしたら、本当に相撲を始めて、昨日知り合ったばかりなのに、相撲してる。男の子と女の子が、抱き合って相撲してるよ。すっかりうちとけて、君達、いつの間にそんなに仲良くなったの?って思うくらい、仲良くなっている。

ということで、3時から公開ワークショップだったのですが、3:15頃に、一度、見学者の方々にも挨拶をして、昨日からやってきた内容を少し実演して紹介することにした。すると、子どもたちが、「もっと作りたい」、「歌作ろう」、と言う。ぼくとしては、「作りたい」という声があがるのは、すごく嬉しいのだが、まずは、お客さんのことも思って、「寒い」、「寒いのイヤ」、「バナナの木」、「どうやって実がなるの」の4曲を演奏した。で、5曲目をやろうかと思った時、でも、みんなが、「作りたい」と言うのだから、作ろうと思った。ぼくも昨日の成果を伝えるより、作りたい。

で、ぼくは、4人程度のグループになってもらって、テーマ自由で作ってもらうことにした。10分しか時間がないけど、まあ、何かはやってくれるだろうという信頼関係も生まれてた。今までは何か制約があってやってもらったけど、2日間の最後に、みんなが何をするのか、好きにやってもらった。「寒いのイヤ」の替え歌もあった。ショートコントもあった。「ひな祭り」の歌のガムランアレンジもあった。恥ずかしそうにもじもじするチームもあった。それは、どれも10分で作った中途な感じのものでもあったし、でも、好感の持てるものだった。

で、ぼくは、みんなも演奏を聴かせてくれたし、自分も演奏しなくっちゃ、と思った。そう言い出す前に、子どもから、「野村さんの演奏も聞かせて欲しい」と要望があった。ぼくは、「ウマとの音楽」の鍵ハモのソロバージョンをやった。これは、8分くらいある曲だから、結構長い曲だ。でも、かなり集中して聴いてくれた。曲の終わりごろには、宏実ちゃんも声で共演。ヴァイオリン少年もヴァイオリンで少し加わっていた。そして、ぼくが曲を終わり、ワークショップの閉めの挨拶をして終わるはずだったが、そうではない展開が待っていた。

曲の終わりの最後の音を吹いた後、沈黙の後、ヴァイオリン君がヴァイオリンを弾いた。ぼくは、これを制して、終わりの挨拶をする選択肢もあったけど、終わる瞬間を少しでも遅らせたくって、もうちょっと楽器やりたくって、音を出して答えを待っているんだったら、もう少しだけやっていきなよ、って思った。ぼくは、閉めの挨拶をするのをやめて、「じゃあ、もうちょっとだけ楽器やるか」、とみんなで楽器を鳴らす。最後の即興演奏。なんだか、不思議な終わり方だった。

見知らぬ男性から声をかけられた。その人は、作曲家の戸島美喜夫さんだった。23年前の3月、高校1年生だった時、戸島先生のお宅を訪ねた。「作曲の学生は先生に直されたところをそのまま直したら一流にはなれない」と言ってくれた人だ。23年ぶりにお会いした。会うのは2度目だが、すごく人生に影響を与えてくれた人に、こんな場で会う。不思議な感覚だった。

会場には、作曲家の牛島安希子さんもいた。牛島さんと作曲家の坂野嘉彦さんを訪ねた。そして、ホエールトーン・オペラって、何だったのか、この二日間の体験ワークショップから、何が分かったかについて、話し合った。

今回は、「ホエールトーン・オペラ」の楽譜に、演奏者の立場で接してみる体験だった。そうしてみると、楽譜のうまくいっているところ、いっていないところが見えてくる。そして、坂野さん曰く、ホエールトーン・オペラは「作品」というより、「形式」なのかもしれない、と言った。つまり、シンフォニーという形式で色々な作曲家が作曲するように、ホエールトーン・オペラという形式で色々な作曲家が作曲していい。「しょうぎ作曲」というのは、ぼくの作品だが、「しょうぎ作曲」に基づいて作曲された曲がいっぱいあるように、ホエールトーン形式で、作曲できる。

これから、坂野さんも、ぼくも、牛島さんも、・・・・、多くの作曲家がホエールトーン形式で作曲をする。どの曲もホエールトーン・オペラでありながら、新しい作品になる。これ、やりたい。やろう。2日間のワークショップを通して、ホエールトーン・オペラの可能性が、また発見された。やったー

皆さん、2日間おつかれさまでした。