野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

「ホエールトーン・オペラ」は生きている

ヒューとの「ホエールトーン・オペラ」2日目。今日は、豊中市文化芸術センターの大ホールが会場。集まってきた人々が、各自楽器を鳴らしている。ボンゴの叩き方を教えてもらったり、弦楽器だけで集まって合奏したりしている。ワークショップが始まるまでの時間が、既に音楽。

 

第3幕第2場の「治療1 傘の指揮」から始まる。傘を指揮棒にして、殿様の治療をする。殿様役を演じる人によって、傘の指揮も違ってきて、単なる指揮の合奏と違った様相を呈するところが面白い。続いて、3グループに分かれて、第3幕第3場の「治療2 梅の精」、第4場「治療3 熱唱するシンガー」、第5場「治療4 鍼」を作ってもらう。「梅の精」女声とリコーダーの美しい響き。「熱唱するシンガー」は、ギターのコードにのせてのバリトン。「鍼」は、横たわる殿様の体に、ハンドベルを置いていくので、それがお灸のようでもあり、心電図のようでもあり、見た目にも面白い。第7場の「カバに電話しよう」は、「どうしよう?」が「しょどう」になるシーン。「どう」と「しよう」に分かれた合唱を、二人の指揮者が指揮をするシーンになった。第8場「黒と白」を楽器で大合奏し、第9場「パワーオブラブ」をホエールトーン音階で作詞/作曲し、歌いにくい歌だけれども頑張って練習。第11場の「仮面舞踏会」までやって午前は終了。

 

午後は第4幕には行かずに、昨日やった1幕から順番にやってみた。映像の山城さんも来ているので、撮影していく。15年前にワークショップで生まれた音楽を、昨日、再創造したけれども、今日、また昨日の音楽をそのままなぞるのではなく、再創造することになる。こうやって、15年前の音楽が形を変えながら生き続けているのが、面白く嬉しい。1幕から3幕までの数々の曲を演奏して撮影して、午後のワークショップも終了。

 

ヒューと野村で、「ホエールトーン・オペラ」を作ったのが、15年前(2004)とか14年前(2005)で、その後、日本での全幕上演(2006)、愛知でのワークショップ(2008)、イギリスの5つの小学校合同での第2幕や大学生との第3幕(2009)、イギリスでの全幕上演(2010)をやった。その都度、個性的なゲスト(梅津和時山川冬樹、チャールズ・ヘイワード、あいのてさん、など)を招いたが、今回の日本センチュリー交響楽団ボーンマス交響楽団のようなオーケストラ楽団員が加わったのは、初めてだ。オーケストラ・プレイヤーは、ソリストとは違った関わりだ。ソリストは、自分の音楽的な個性を強く前面に出してくるが、オーケストラプレイヤーは、アンサンブルの中に、自分の音を溶け込ませていく。参加者と参加者をつなぐ糊の役割で、人と人、音と音をつないで、アンサンブルを成立させていく。だから、個性的な参加者たちが自由に音を出していても、アンサンブルが見事に成立していたのは、オーケストラプレイヤーの存在が非常に大きい。

 

あと、エディが言っていたことだが、これほど実験的な音楽ワークショップは初めてとのこと。2歳から70代の人まで参加していているのに、一般的なわかりやすい音楽ばかりでなく、時にはブーレーズの音楽のような響きになることが、驚異的だと言う。

 

15年前に、関西空港にヒューを迎えに行って、空港から移動する電車の中で、ヒューと最初の打ち合わせをしたことを思い出す。「5日間のワークショップで何分のオペラができると思う?」とぼくが尋ねた時に、ヒューは確か20分と答えた気がする。そして、その後に「楽観的すぎる?」と聞いてきた。結局、5日間で50分の作品になり、それは、1年半後には、3時間を超える大作になっていた。15年後も、まだ「ホエールトーン・オペラ」やってるかなぁ。

 

 

ホエールトーン形式 - 野村誠の作曲日記