野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

サントリーホールの下見/タリック・タンバンのリハーサル

よほど疲れていたのか、10時間も眠ってしまった。

 

サントリーホールに会場下見に行く。8月27日のサントリーサマーフェスティバル2023のコンサートで、野村誠のジャワ・ガムランの新作《タリック・タンバン》が世界初演になる。この作品は、綱引き、四股、ゴルフなども登場するので、会場の使い方を確認したくて、下見に行った。綱引きができる直線をとれる場所がかなり限定されそうで、演出のプランが色々思いつく。現場で見てよかった。

 

京都に移動して、夜は、ガムランの「マルガサリ」と《タリック・タンバン》リハーサル。リハーサルでは譜面通りに演奏することを推奨するのではなく、譜面はアイディアを膨らませる起点としているので、今日もアイディアが膨らみ、舞台上の楽器配置案も生まれてきたし、綱引きシーンでバリ・クンダン(バリガムランの太鼓)も大活躍した。メンバーの特技も色々紹介してもらい、作品にも反映していきそうな見込み。

 

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東京大学で演奏とトーク

東京大学にて、Memu Earth Labの集い。東京大学の森下有さんと久々の再会。

 

Nick Luscombe、柳沢英輔さん、は前から面識があるが、本日共演するRahel Kraftは本日初対面だったので、どんなセッションになるか、会うまでは不安もあった。でも、今朝会って、少し話した時点で、この人は大丈夫だと直感して、あとは安心。

 

茂木綾子さんの90分の芽武の森を記録した映画を見て後、Rahelとぼくのセッション。ケンハモと鹿の角のセッションから始まって、鹿のツノを床で滑らせたりした。それは、冬の凍った湖(沼)の表面を転がる石の回想。そこから移動して、柳沢さんとニックのフィールドレコーディングの音の重ね合いとなり、そこに、ラヘルとぼくが2階や会場の周囲から音を重ねていく。展示台を指で擦って演奏する低音が意外によかった。2階から降り注ぐケンハモの音。

 

その後、4人でのトークセッション。日本語通訳なしで英語でのトーク。観客のほとんどは日本語話者だったが、、、、。別々の時期にメムに滞在したアーティスト同士で、体験をシェアできた。

 

本日、野村誠とニックによるアルバム『MEMUSICA』が本日リリース。今日のお客さんは、冊子『めむとあそぶ』が無料配布であるだけでなく、CDも無料配布。大盤振る舞い。

 

午後はニックにインタビューされて、また英語(通訳なし)。ニックからは、質問の答えが聞きたいというよりも、質問をすることで野村誠という人格に触れることができるのが面白い、と言われる。トークを聞いたラヘルからは、あなたの話は面白い、あなたは正直で真っ直ぐな人なのね、と言われる。続いて、ニックが柳沢さんにインタビュー。柳沢さんのメムのアルバムも、近々できてくるみたいで、とても楽しみ。

 

ロンドンで何度も会っていた左右田智美さんが東大の同じ校舎のデザイン研究所で働いているらしく、数年ぶりの再会も嬉しい。他にも、色々な再会。

 

ラヘル、柳沢さん、有さん、スタッフのひなたさん、こうしろうさん、有さんのご家族とのディナーで、色々と話がはずんだ。Memu Earth Labは、ますます進化していた。

 

アコーディオンのリハーサル/第129回だじゃ研

豊橋のホテルをチェックアウトして、Jane Bentleyとお茶をして、その後、ジェーンと吉野さつきさんと最後のランチ。ジェーンは、昨日の「ドラムサークル+野村のピアノ」に手応えを感じたようで、ワークショップとしてだけでなく、ステージ上でのパフォーマンスとしてやってみたい、と言う。いつか実現できるといいな。

 

二人と分かれて、東京に移動。6月25日の大田智美さんのコンサートに向けて、リハーサル。箏の小林真由子さんとは初対面。当初、出演予定だった竹澤悦子さんの代役で、今日は竹澤さんもリハーサルに来てくれて、数々の助言をくださる。8年前に作曲した曲だけど、8年前の自分は今の自分とだいぶ違うので、作曲者だけど、どう演奏するべきかは、すぐにはつかめない。リハーサルで試行錯誤するうちに、つかめてきた。

 

WINDS CAFE でお会いしましょう - nifty

 

夜は、「第129回だじゃれ音楽研究会」活動日。梅田クラブ/劇団うめはる、とのコラボで取り組んでいる認知症の人への接し方を題材にしたオペラづくり。今日で、悪い例と良い例の区別が明確に表現できた。即興セッションは、想像を超えるほどの狂乱のセッションになったが、この狂乱が最近は通常になりつつあり、だじゃ研の爆発力に感嘆するばかり。

 

 

ジェーンとノムのみんなでつくろう!いきなり音楽プロジェクト!!(7日目)

『ジェーンとノムのみんなでつくろう!いきなり音楽プロジェクト!!』の7日目。いよいよ最終日。本日は、『むかしばなしから音楽をつくろう!〜妖精、妖怪⁉️昔話の世界を音楽でかたろう!』10:00~16:00@オリエントホール(オリエント楽器豊川店)だった。定員20名程度としていたが、申し込みの希望が多く(早めに受付を〆切したが)29名の参加者となった。

 

午前は、参加者の方が、数多くのドラムを貸してくれたこともあり、ドラムサークルが非常に盛り上がった。ドラムサークルって、みんなで輪になって太鼓を叩くんだろうなぁ、10分くらいやるのかなぁ、と漠然と思っていたが、大間違いだった。低音の太鼓が多いから、高音域を足そうと思って、ケンハモで高音域の音を重ねてバランスをとってた。ピアノを弾いても、この低音では音がマスキングされて効果ないなぁ、と思って、最初はピアノで加わらないつもりだった。でも、ジェーンのさりげない強制力の強くない指揮が加わることで、だんだんみんなの耳が開いてきて、アンサンブルが良くなっていく。ピアノで入ってみると、ピアノの弾き方を変えると、それに即興的に対応して、参加者の創造性を触発しながら、ちょっとだけ指揮をして対応していく。顔の表情とジェスチャーだけで、3歳の子どもも1時間釘付けになって演奏に参加し続けるのだから、びっくり。気がつくと1時間以上のセッションが続いた。その間、本当に色々な場面があり、ああ、面白かった。

 

休憩の後は、スコットランドの語り物(The Day we went to Rothesay)をジェーンに教えてもらう。

 

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このメロディーを教えてもらって、日本語の替え歌を作った。

 

心を込めて

年越しソバつくる

紅白を観て

酒が飲めるぞ

108つの煩悩

除夜の鐘鳴る

富士、鷹、なすび

笑う、こぞ今年

 

これを日本語とジェスチャーで歌ったら、ジェーンの推測がかなりよく、彼女の非言語コミュニケーション力の高さを思い知るものとなった。ジェーンの解釈は、「心から、料理して、テレビとカラオケ、お酒を飲み、頭痛があり、釣りをして、富士山とスパゲティ、笑う」みたいな感じ。ちなみに、スコットランドのオリジナルは、大晦日にRothesayに旅行に行くことにして、ホテルを探すけど、80人いるのに1部屋しかなくって、みんなで1部屋に雑魚寝して、耐えられなくてホテルを飛び出し、バンドに加わるが、警察にダメと言われて帰った、というような可笑しな話。

 

ランチ休憩中のRothesayの曲をピアノで弾いて、突然ダンスになったりの時間も楽しかった。午後、みんなで楽器で音をパスするゲームだけで30分以上楽しんだ。単なるウォームアップ/アイスブレイクとしてゲームをしているというのでなく、本当にじっくり時間をかけて味わっていくと、単純な活動でも一人ひとりの個性が見えてくるし、どんどん味わい深くなっていく。

 

その後は、ばったら堂の内浦有美さんとジェーンが交互に、日本の民話とスコットランドの民話を紹介。山の背比べ(豊橋)、ネッシースコットランド)、羽衣天女豊橋)、Selkie(スコットランド)。

 

そして、グループに分かれて、物語づくり。5つの面白い妖怪物語が創作されて、演じられる。それを別のグループがさらに音楽劇に発展させ、いっぱい笑う楽しい時間であっという間に終わりの時間になった。

 

最後に感想をシェアした後、『蛍の光』をスコットランド式に手を繋いで輪になって歌った。楽しく面白く、でも終わるのが寂しい。みんなにアンケートを書いてもらっている時間に、蛍の光をアレンジしてピアノで弾いているところから、参加者の人との連弾に発展したり、最後までいい時間だった。次々に、色々な人たちと記念撮影。なんか、インドネシアのバンドゥンでコンサートした時、ほぼ全員の観客と次々に記念撮影をし続けたことを思い出した。

 

1週間の最後だけあって、すごく手応えのあった一日であり、また次の何かが始まっていきそうな感覚も持てた。打ち上げで、オリエント楽器の鎌田社長、ばったり堂の内浦さん、愛知大学の吉野先生、そして吉野ゼミの学生たち、ジェーンといっぱい話した。こうやっていっぱい話せるのいいな。

 

みなさん、本当におつかれさま。

ジェーンとノムのみんなでつくろう!いきなり音楽プロジェクト!!(6日目)

『ジェーンとノムのみんなでつくろう!いきなり音楽プロジェクト!!』も、ついに6日目。今日は、吉野さつきさんが運営上の準備に専念し、ジェーンと二人で一日を過ごし、明日のワークショップへの準備。と言っても、一緒にご飯を食べ、買い物をしながら、色々話し込み、お互いの理解を深めていく。ジェーンはコロナ禍で、テレビ番組の音楽を制作することをきっかけに、新たなバンドSisken Greenを始めたそうで、もうすぐアルバムがリリースされる。ジェンダーの問題に切り込む歌詞の作品も色々あるようで、パープルリボン作曲賞の話や《DVがなくなる日のためのインテルメッツォ》の話などもした。

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氾濫しそうになった川を見に行って、川沿いも歩いた。数多くの流木が流れていた。こうして、町を歩きながら、少しずつ色々、明日のワークショップのアイディアが生まれてくる。ちょっとカフェで憩いの時間を過ごしているうちに、気がつくと明日のワークショップの打ち合わせになった。音楽ワークショップを通して、ぼくが築いてきた方法と、ジェーンの方法で共通することがたくさんある。だから、あんまり説明しないでも伝わってしまう。

 

彼女は、音楽家になる前は、人形劇団の劇団員だった。その頃には、台湾、香港、ヨルダン、シリアにも公演にいったそうで、ヨルダン国王も観に来たそうだ。

 

夕食の後は、お互いに明日の準備に取り組む。いよいよ、明日が最終日。

ジェーンとノムのみんなでつくろう!いきなり音楽プロジェクト!!(5日目)

『ジェーンとノムのみんなでつくろう!いきなり音楽プロジェクト!!』も5日目。後半に入ってきた。今日は、土砂降りの大雨。

 

本日のメインプログラムは、ばったり堂を訪ねる。ばったり堂は、内浦有美さんが運営する豊橋の地域活性を起こす民間の団体。民話や妖怪をリサーチして、ユニークな活動をしている。『豊橋妖怪百物語』という本も作ったり、『豊橋妖怪パン祭り』というイベントを開催したり、『舞踏豊橋妖怪百物語』なるダンス公演が劇場で上演されたこともある。

 

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今日は、内浦さんの琵琶の先生である村田青水さんの琵琶演奏で、豊橋の民話を語って聞かせていただく。お話も曲も村田先生が作られたそうで、とてもクリエイティブな琵琶奏者の方だった。

 

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スコットランドの民話と豊橋の民話のエクスチェンジ。ネッシーはもちろん、スコットランドにも色々な妖怪がいる。

 

『妖怪ケマメ』という日仏合同のジャグリング作品の音楽をつくったことを思い出す。

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フィリピンのDayang Yraolaと打ち合わせ。Listening Biennaleのキュレーターをしていて、トークと演奏で出てほしい、という依頼。

 

土砂降りなので、ホテルに缶詰。ホセ・マセダの譜面を作成中。ちょっとずつ、マセダの意図がわかってくる。

ジェーンとノムのみんなでつくろう!いきなり音楽プロジェクト!!(4日目)

ジェーンとノムのみんなでつくろう!いきなり音楽プロジェクト!!の4日目。今日は、オリエント楽器でのトークイベント。

 

色々な人が混ざっている方がいい、とジェーンは言う。また、彼女はコミュニティミュージックと音楽療法を完全に別物と切り分けるわけではなく、様々なグラデーションの中で、それぞれに関心を抱いている。だから、日本にリサーチに来た時にも、野村誠にもインタビューするし、音楽療法士の生野里花さんにもインタビューをした。ドラムサークルにも関心を抱くし、博士論文も書く。もともとは、人形劇団から出発し、音楽教育を受けたわけではなく、現場の経験を積みながらパーカッショニスト/コミュニティミュージシャンとなっていった人。越境していく人だ。

 

ぼく自身は、共同作曲として作曲の可能性を拓いていく活動をしてきたつもりだった。そのためにワークショップとして、他者と一緒に交流をして音楽を作ってきた。そうした経験を経て、気がついたら、ジェーン同様、顔の表情とかジェスチャーとか、演奏のニュアンスを全身で表現する身体的な音楽家に育ててもらったのだなぁ、と自覚できた。

 

トーク、打ち合わせの後、豊川稲荷への束の間の遠足。疲れたのか、電車の中でも熟睡。

 

ホセ・マセダのスコアを実音記譜に全面的に書き直して浄書作業をしている。一つひとつ楽譜の疑問点を洗い出す作業。迂闊に指揮者を引き受けてしまったけど、自分の曲だったら楽譜に書いてあること何でも答えられるけど、他人の曲だと大変だ。作曲した直後のホセと同じくらい曲のことを理解したいので、1音1音を書いた意味を一つずつ確認していくと、だんだん、なるほど、と分かってくる。