野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

映画『今、この時』/《土俵にあがる15の変奏曲》

二日続けて外出が続いたので、本日は自宅。たまっている家事や事務作業などをこなしているうちに、全然かたづかないのに一日が終わっていく。

 

新倉壮朗くんを追った甲斐田祐輔監督のドキュメンタリー映画『今、この時』がいよいよ公開になるそうで、推薦文を頼まれていたので執筆。タケオくんの素晴らしさを言葉で伝えることは難しく、なかなかうまく書けない。

 

ロシアのプーチン大統領の再選のニュース。行政の文化担当者が2〜3年で変わると困ることも多いが、国家の主席は変わった方がいい。

 

一昨日《土俵にあがる15の変奏曲》を熊本で再演したいと何人かの方に言われ、ピアノパートは野村が弾くことも可能か、と聞かれたので、そう言えば、この曲は作曲したけどピアノを弾いたことはないので、譜読みしてみる。譜読みが厄介なところはあるけど、弾けそうなので練習。

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ヘリ・ドノ

里村さんが仕事が休みなので、博多方面にお出かけ。

 

九州芸文館で開催中のヘリ・ドノ個展を見る。1990年代にポストカードでやりとりをしたことがあるヘリ・ドノは、インドネシアジョグジャカルタ現代美術家だが、実際に会ったことは(多分)ない。《ワヤン桃太郎》という作品もあり、以前ガムラングループのマルガサリと全5幕の楽舞劇《桃太郎》を作ったものとしては、興味深く見る。

 

artscape.jp

 

その後、里村さんは、アーティストカフェフクオカで開催のトーク『キュレーションとはなにか』に行き、ぼくは福岡アジア美術館で開催のヘリ・ドノを囲んでのトークイベントを聞きに行く。

artistcafe.jp

 

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60席用意されている座席は満席で、立ち見が多数いる盛況ぶり。多民族/多宗教のインドネシアで自覚的に多文化主義で創作を行うヘリ・ドノの活動は、非常に的確に批評的だが、ユーモラスで寛容さを持つから、様々な層に響く表現となっている。作曲家の藤枝守さんや、ガムラン奏者の村上圭子さん、アートコーディネーターの宮本初音さん、アジア美術館の中尾さんや蒲池さん、福岡市美の山口さん、などなど、いろいろな人と再会。ヘリ・ドノとも色々喋った。

 

コロナ禍で「歌」が困難な時代を経て、「歌」についていっぱい考えた。だじゃれ音楽の「千住の1010人」と「オペラ双葉山」に向けて、肥後琵琶を始め、語り(歌)について肥後琵琶から考えていこうと思っていた矢先、ワヤンのことを考える。琵琶の語りとワヤンのダラン(人形使い)の語りは、当然いっぱい共通することも多く、肥後琵琶を探求することが、ワヤンに向き合うことにもなるな、と思った。

 

行き帰りの道中で、里村さんと3月31日の熊本市現代美術館でのワークショップの打ち合わせをする。現在開催中のミュシャ展に絡めて、ミュシャの絵をミュージシャンとモシャしてミュージックをつくるようなワークショップかな。

 

田島隆との30年ぶりの共演

熊本のアーケイド街で行われる同時多発ライブイベントStreet Art-plex(以下 Sap)に田島隆くんと出演。タンバリン博士として知られる田島隆さんと出会ったのは、お互いが20代前半だった1990年。ダンサーの山下残くん、トランペットで藤本由紀夫さんのもとでサウンドアートを学ぶ安井献くん、そしてギターでDTMで作曲していた田島くんの3人によるバンドThe Nightsでだった。京都精華大学の木野祭で演奏を見たのが最初で、最後の共演は1994年の京大西部講堂での演劇公演『大温室』の音楽をぼくが担当した時に30人くらいで演奏した演奏メンバーの一人として出演してもらった時。つまり30年ぶりの共演である。

 

30年ぶりなので、実はお互いのその間の活動は全く体験していないので、ネットにある情報などで想像する程度である。しかし、Sapのプロデューサーの坂口美由紀さんからの説明を聞き、どうやらSapのExtravaganzaというイベントの趣旨が、ジャンルにカテゴライズされない様々な驚きをストリートで展開することだと知り、だったら田島くんだろうとお誘いしたが、これが想像を絶する素晴らしさだった。

 

タンバリンでどれだけ超絶技巧と言っても、所詮タンバリンだろう、と人は思う。タンバリンを追求して極めるといって想像できる範囲というのは、そこまで大きくない。しかし、田島くんの演奏を聴くと、目から鱗、耳から鱗が何十枚と落ちる。えーーーーーっ!どこから、そんな音が出るの?意味不明、理解不能、信じられない。でも、それが現実なのだ。30年間に何があったのか、その経路は知らないけれども、その間に田島隆はたどり着いた世界がある。音楽には、誰もが見過ごす抜け道や裏道がある。タンバリンを掘り下げても、すぐに行き止まりや袋小路に入ると思うから、それ以上は掘り下げない。掘り下げても、少々裏道に入り込むくらいで、極限までやったと思う。しかし、裏道も抜け道も行き尽くして、もう道がないと思ったところからがスタートなのだ。道もないし、ここは進めないだろうと誰もが思う場所に、無理矢理に穴をこじ開け進んでいった先に別世界がある。その別世界にいきなり連れていってもらった。驚愕である。

 

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ぼくは、ピアノと鍵盤ハーモニカの二刀流で臨んだが、田島くんはタジバリン1個だけでやって来た。たった1個のタジバリンと野村の二人で、時には3人や4人で演奏しているようなサウンドにもなり、時には非常に繊細な音色になり、ページを次々にめくっていくように、音の世界が目眩く展開していった。あまりに息が合っているので30年ぶりの共演だと思った人は皆無で、かなり頻繁にデュオでやっていると勘違いされた。でも30年ぶり。次回が30年ぶりでは待ちきれないので、もっと共演を続けていきたい。

 

イベントには、鈴木潤さんや北口大輔くんや伊左治直くんとボサノバで何度も共演していた犬塚彩子さんも出演していて20年ぶりくらいに再会したり、P-ブロッのしばてつさんが出演していて、ケンハモセッションがあったり、京都の舞踏家の袋坂ヤスオさんも出演していて、セッションでご一緒したり。袋坂さんのパートナーで元P- ブロッの小松紀子さんなど、色々な再会もあり、同窓会のような気分もあったが、一方で新しい出会い(主催者でかつサックスの葉山さん、長身のパーカッショニストMAYAさんほか、、、、)も色々あり、、、、。

 

3月31日には、熊本市現代美術館でもワークショップもあるので、熊本市でも色々活動が増えて嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トーキョー・シンコペーション/KIACコミュニティプログラム

沼野雄司『トーキョーシンコペーション 音楽表現の現在』(音楽之友社)読了。これは、とても明快で面白い本だった。音楽の話なのだが、その背景にある哲学を炙り出すべく、展覧会の話や映画や文学の話などが出てきて、そこから車線変更するように、現代音楽の作曲家の話にスライドする。ジェンダー、視覚、災害やホロコースト、テクノロジー、日本性、などなど、毎回のテーマをしっかり浮き彫りにしながら、作曲家やアーティストが、その問題にどう向き合っているか?ちゃんと凡庸じゃなく取り組んでいるか?ということを問うている。刺激を受ける良書である。

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JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)とKIAC(城崎国際アートセンター)によるミーティング。3年計画で続けてきたコミュニティ・プログラムの3年目について。演劇によるまちづくりを進めてきた豊岡市の前市長に対して、アンチの政策を掲げた現市長が3年前に当選した。そのこともあってか、次年度のKIACの総予算は、今年度の予算から大幅削減らしい。JACSHAの3年目も予定通りのプランでは行えないらしく、新たな調整をどうしていくかについても話し合った。

 

 

 

20年ぶりのミーティング/日本の作曲/能楽源流考

今から20年前、ぼくは京都女子大学で専任講師をしていた。講義や演習、卒論指導などをするのは楽しい時間であり思い出で、組織の中での理不尽なことが受け入れ難く、3年で退職し、フリーランスの音楽家に戻った。

 

その頃に、ぼくの授業に出ていた人が、中学校/高校の先生になっていて、コロナを機に始まった体験学習のような企画で、ぼくは招いて何かをしたい、との連絡を受けた。本日は、その打ち合わせをした。20年前の授業のことをとても覚えてくれて嬉しい。何かできたらいいなぁ。

 

確定申告のための作業が、だいぶ出口が見えてきた。

 

『日本の作曲2010-2019』や『日本の作曲2000-2009』でも野村作品について取り上げられたが、『日本の作曲2020-2022』で野村作品がとりあげられるらしく、データのやりとりなどをする。

 

能勢朝次『能楽源流校考』という1000ページ近くある本を、時々開く。日本の演劇を遡っていくと、歌舞伎→能→猿楽→となっていき、平安時代相撲節会では、相撲があり、雅楽があり、猿楽、散楽などがあり、これは言ってみれば、相撲と雅楽と能が一緒に存在するというのは想像するだけで面白く、言ってみれば、相撲と音楽とダンスと演劇が一緒になっていた儀式があった、ということなのだ。しかし、何のために相撲節会をするのだろう?ぼくの説は、734年に起こった畿内七道地震を受けて、大地を鎮めるために始められたのではないか、というもの。

 

明後日、3月16日(土)に、熊本のアーケード街で演奏する。タンバリン博士の田島隆くんは、本当に素晴らしいので、お近くの方は是非!

artplex.jp

 

里村さんに色々話し相手になってもらい相談する。考えをノートに書き留めていくことにしたく、書記してもらう。話すこと、書くことで整理されることも多い。

 

肥後琵琶/山内光代/須藤かよ

本日は、肥後琵琶のお稽古の第1回目。先生は、岩下小太郎さん。今日は、琵琶の歴史に関して、小太郎さんに講義していただき、ぼくが色々質問したり、絃の張り方を教えていただいたりした。あとは、楽器の持ち方や奏法などについては、質問すると実演して教えていただく。気がつくと2時間半も!貴重な資料はお貸しいただき、勉強することいっぱいで初心者は楽しい。

rkb.jp

 

熊本市現代美術館の『ミュシャ』展を見る。九州で唯一の公立の現代美術館なのに、熊本市現代美術館は、現代美術の展覧会でないことが結構あり、「熊本市美術館」という名前に変えた方が適切なのでは、と思うこともある。図書スペースに、タレルやアブラモヴィッチの作品が常設されているのを知って、最初に来た時はワクワクしたし、図書スペースの蔵書もとても良いのだけど、、、、。九州にいると現代美術の展覧会自体が本当に少ないので、せめて現代美術館では現代美術の展覧会をもっとやって欲しいなぁ。それでも、『ミュシャ』展の最後におまけのように熊本市現代美術館のコレクション作品から、数展が関連作品として展示されていて、ささやかに現代美術があった。あと、無料で入れるギャラリーで、山内光枝さんの映像作品の上映をやっていて、これが一番面白かった。

 

3月30日に、ぼくは熊本市現代美術館のアートラボマーケット(という名のスペース)に登場し、ワークショップか何か面白いことをする。その下見を兼ねて、アートラボマーケットのスペースも見る。

 

夜は須藤かよ(ピアノ)、五十嵐歩美(ヴァイオリン)、松本敏明(ハーモニカ)によるライブを聴きに行く。須藤さんは、以前東京でライブで対バンになったことがあったが、10年以上昔に熊本の田舎に引っ越しされていて、ぼくも熊本に来てからお会いしていなかったが、最近連絡とって、今日、ようやく再会。行くと言ったら、鍵盤ハーモニカを持って来て、と言われたので、鍵盤ハーモニカを持っていった。ライブはブラジル特集で熱演を楽しんだ。途中で、我が琵琶の師匠の小太郎さんが琵琶で登場してセッションタイムがあり、そこでぼくも鍵盤ハーモニカで出演。さらには、明日、東京に引っ越し、これから東京で音大生になるという若きトランペッターがOver the Rainbowを吹く時にも、ぼくも呼ばれて鍵盤ハーモニカを吹いた。せっかくだからブラジル音楽もやりたかったけど、またの機会に。《あんたがたどこサンバ》とか《肥後琵琶ブラジル》やりたくなった。せっかくハーモニカの名手がいたので、ハーモニカと鍵盤ハーモニカのセッションしたかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

相撲随筆/数字より内容を振り返りたい

酒井忠正『相撲随筆』(ベースボールマガジン社)読了。初代相撲博物館館長を務めた明治生まれの著者が1954年に出した本で、明治、大正、昭和初期の相撲を同時代として目撃してきた方の感覚を文章を通して味わえたところが、非常に新鮮だった。

 

確定申告のために交通費を記帳すべく、1年間のブログを全部読み返す作業をしている。この日、北千住から梅島に行って、梅田クラブとワークショップがあったんだなぁ、とか思いながら、北千住ー梅島間の交通費をエクセルに入力し、この日はガムランのリハーサルで向日町で車に乗せてもらったから、京都向日町をJRに乗ったなぁ、とエクセルに入力する、という甚だ効率が悪いことをやっている。毎日やっておけば、こんなことする必要がないのだが、1年経って振り返ることが意味があるような気がして。要するに、税務署からは1年間の会計の報告をしろと言われているのだが、自分としては1年間を報告するなら、お金のことなんて二の次で1年間に何をしていたのか、その意味を報告したい。でも、税務署はそんなことを求めていないので、お金の数字だけを報告する。その数字だけを報告するのが悔しいので、自分なりに数字で表せないことを拾いながら、ついでに数字を書き出している。そんなことをしているから時間がかかるのだが、効率よくやるより、時間をかけてでも何か発見をしたくて、ゆっくりやっている。こうやって次々にブログを読み返して交通費を記録していると、昨年の6月末から7月上旬にかけて、信じられないような移動をしていることを再認識する。今から思うとコロナにもならず無事に乗り切れてよかったなぁ、と思う。