野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

拡張することと肯定すること

街に出て髪を切り、すっきりする。バレンタインデーで、里村さんとスイーツを食べながら、カフェで話し込む。

 

ぼくは、自分が思っている「音楽」や「作曲」という概念の拡張を行なってきたと思うし、これからも、それをやっていくと思う。この「拡張」というのは、今まで「音楽」と思われていなかったものが「音楽」だったことに気づくとか、今まで「作曲」だと思っていなかったことが「作曲」だと気づくとかである。それは別に、従来あった「音楽」や「作曲」を否定したり破壊して、別の「音楽」や「作曲」に塗り替えることではない。

 

かつては、既に価値づけされている古典や王道(クラシック音楽ショパン、ジャズ)は、絶対にやらない気持ちだった。でも、自分がそういう王道に対して抱いて反発してアウトサイダーであることに安住すること自体が、ダメだと思った。日本センチュリー交響楽団と仕事を始めた時に、オーケストラは変わるべきだとは思ったが、オーケストラの仕事を全部肯定するところから始めた。だから、五線譜を書く機会が増え、響き合うようなハーモニーを多用し、ピアノを弾いて指揮をするなど、以前の野村を知る人には保守化したように見えただろう。でも、そうした活動の先に、オーケストラ団員が解体工事現場でヘルメットを被り即興演奏をするという出来事が起こっているので、保守化ではないんだけど。

 

熊本に引っ越して、もうすぐ3年。3年と言っても、最初の2年はコロナ禍だったので、熊本の人々と対面で交流する機会は少なかった。コロナ明けの1年は、遠征が多すぎて熊本にほとんどいられなかった。だから、熊本で人とつながっていくのは、これからだ。熊本で魅力的なアートや音楽に、出会えた感触は未だない。ここで熊本のアートシーンを否定してしまうのでなく、今あることを全肯定しつつ、どうやって熊本のシーンが活性化していくことにつながるのだろう?そんなことを言うと、熊本の方々からは余計なお世話と思われるかもしれない。でも、せっかく住んでいるのだから、ここで交わって面白い場やつながりを作っていきたいな、と思った。