野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

野口里佳『不思議な力』/吉増剛造の目眩

東京都写真美術館に行く。野口里佳の個展『不思議な力』を見に行く。そこで里村さんと合流。野口里佳の作品は、東京、バーミンガム、伊豆、さいたま、大阪、石巻那覇などで見てきて、いつも刺激を受けてきたので、今日も楽しみに足を運んだ。そして、素晴らしい展覧会だった。一つ一つの写真や映像が、果てしなく近く果てしなく遠い世界に誘うし、永遠の中の一瞬、一瞬の中の永遠を感じさせてくれる。切り取られた小さな世界なはずなのに、そこに広大な宇宙の広がりを感じさせてくれる。

 

その体験は、とても言葉でつかまえられない。でも、あの場に戻るためのきっかけの言葉としては、宇宙に浮かぶ卵、スプーンとの一期一会、お父さんの遺したフィルム、虫たちの営みとその背後に照らされる(焦点の合わない)植物の大海、胃カメラ反転させる世界の内側と外側、世界を震わせるクマンバチの羽音、跳ぶ魚と泳ぐヘビ、矢印になったクジャクと、ずっと巡ってきた。白い壁で、写真は一貫して白い額縁に入ってきた。そこに闇がやってきた。初めて黒い額縁の写真と都市の中に走る天の川の映画。この映像は、すごく長い。すごく長いけど、少しだけ見て次に行ってしまうのはダメ。ものすごく長い時間、この銀河を移動しないといけない。なぜなら、この都会の宇宙を通り抜ける銀河鉄道のような宇宙バスで終点まで乗れば、全部の写真が黒い額縁に入っている世界の縁に辿り着けるのだから。

 

気がつくと2時間以上の時間が経っていて、閉館時刻になっていた。そこから、吉増剛造さんがジョナス・メカスの1周忌にニューヨークを訪れるドキュメンタリー映画『Vertigo』を見た。吉増さんは、今も詩に憧れていて、言葉を追い求めている。未完成とか言うのは簡単だけど、完成させずに作り続けることの難しさについて語っていたのが印象的だった。1994年に吉増さんと出会った頃は、「通りかかった若駒」だったぼくらは、あの時の吉増さんの年齢になってしまった。ここから50代、60代、70代とどんな風に生きていくかについて、吉増さんの姿を見てきたことは、とても力になるなぁ。

近くのツタヤ書店に藤野裕美子さんの作品が設置されたというので立ち寄る。シェアラウンジの空間に設置されていて、シェアラウンジでゆっくり過ごす時間がなかったのと、シェアラウンジを作品目当てにジロジロ見ているのもラウンジ利用者の気が散りそうで、作品をじっくり鑑賞することはできず。またの機会に。

 

2009年の国立新美術館の野口展を見に行った時の日記

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2012年のIZU PHOTO MUSEUMの野口展を見に行った時の日記

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