野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

栗鼠の掌の音楽を聞け!

宮城県石巻で行われているリボーン・アート・フェスティバルに来ている。石巻駅から車で1時間の鮎川地区でキュレーターを務めるのは、野村の親友である島袋道浩。島袋くんの案内で、展示を見る。

 

詩人の吉増剛造さんは、ホテルの一室で展示をしている。フロントで鍵を借りて、展示の部屋に入る。金華山を借景にする窓一面に詩が書かれている。ここで、吉増さんは日々詩作に励んでいる。アーティストインレジデンス。80歳の巨匠が、こんな挑戦をしていることに驚く。机の上に、言葉が書かれている。「若い親友、音楽家野村誠と、、、」と始まる一節の後に、「栗鼠の掌の音楽を聞け!」と書いてある。窓にも「栗鼠の掌の音楽を聞け!」。トイレにも「栗鼠の掌の音楽を聞け!」。詩の原稿にも「栗鼠の掌の音楽を聞け!」。昨日の25年ぶりのセッションが、また吉増さんの新たな詩につながっていくことは、本当に嬉しい。

 

その後、野外の展示を見に行く。車でないと行けない場所だ。写真家の石川さんの「掘削」は、非常にダイナミック。島袋くんの「白い道」は、鮎川の森と海と大地と鳥と響き合い歌う4楽章の交響曲のような野外インスタレーション。それは設置された彫刻とか美術とかではなく、ここで生まれた出会いの景色だ。そして鮎川の古い店や病院や民家を活用して、野口里佳の写真が鮎川の光と生活と時間を伝える。

 

今日も、吉増剛造さんの詩人の家で、野村がパフォーマンスをする。吉増さんは80歳で連日の本番ではお疲れだろうし、昨日、濃厚なセッションもあったので、野村がソロでやったり、吉増さんとお話をするなどでも十分かと思った。しかし、北海道や東京からも、わざわざ駆けつけて来るお客さんがいて、今日は出ないと言っていた吉増さんは、小道具を準備し始める。セッションが始まった。吉増さんは激しくハンマーを振り下ろす。ぼくは、ピアノを弾くだけでなく、目を閉じ、音を探した。フランスのカウベルが踊る。野村は石を拾い、石あそび。音楽家の青葉市子がボトルを吹き、ぶなしめじを石の上に置いていき、歌う。吉増さんは目を閉じる。市子さんが鍵盤ハーモニカを吹く。そして、ぼくは「栗鼠の掌の音楽を聞け!」と歌った。栗鼠の掌の音楽。そんな小さな栗鼠の掌で、交流し、交感し、感覚器官に雪が降りつもった。

 

25年前にぼくは20代だった。吉増さんは50代だった。昨日と今日、ぼくは50代になって、80代になった吉増さんと共演したが、そこに、新たな登場人物、20代の青葉さんが登場した。吉増さんとの体験が、二人だけで閉ざされるのでなく、次の世代の音楽家とシェアできたことは、嬉しい。そして30年後には、ぼくは80代になり、その頃に20代になる人が、間もなく生まれてくるのだろう。リボーン。リボーン、リボーン。栗鼠の掌の音楽を聞け!