野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

あーだった、こーだった、けーだった

絵本作家の荒井良二さんとのワークショップの3日目。今日が最終日です。

今日は、グループごとに、絵を組み合わせて、ストーリーを作り、歌を作ってもらうことにしました。

博多弁の歌詞の歌ができました。

一つのグループは、まだ絵が未完成だから、絵を描いています。このままだと、予定通りの時刻に終われない可能性もあります。でも、ぼく自身が普段、〆切を守らない生活をしています。〆切を守らないのは、守る気がないのではなく、いい作品を作ろうと思うと、守れないのです。自分の気持ちに正直に生きれば生きるほど、守れないのです。〆切に遅れたら迷惑なのも承知の上で、でも、一番大切なのは、後悔のない作品を作ることです。だから、ぼくは子どもたちに時間通りに、とは言えません。荒井さんだって、同じだと思います。だから、遅れているグループの進行を、黙って見ていました。

2時半には終了しなければいけません。最後のグループがなんとか完成しかけているのが、2時ごろです。3グループが練習していて、みんなが一つの目的(最後の発表会)に向かって進んでいます。いい雰囲気なんです。でも、この3日間が、こんな風にきれいにまとまって終わっていくなんて、何か嫌だと、ぼくは思いました。

だって、ぼくたちの3日間が、一つの絵本のようなものだった、と思うのです。絵本のページをめくって、最後のページにいる時に、最後のページで、余韻を感じたいじゃないですか!!!ぼくたちの絵本の最後のページは、何か違う違う、って思った。そのとき、遠藤さんが、ぼくの耳もとで、「2時5分です。」と囁いた。どうしていいか分からないけど、ぼくは「じゃあ、みんな集まって」と、みんなを集めた。荒井さんと相談している時間もない。今、何かを言わなければ、このまま時間に押し切られてしまう。嫌だ。なんとかしたい。

ぼくは突発的に、叫んでいた。「このまま終わるの嫌だから、ぼくのわがままで、外に行って発表会やらせてください。」

演じる人が河原で、観客は川の中で見る!ぎよよよよよよよよ、ぶっけっけけっ、どっかーーーーーん、やるぞ〜〜〜〜

川での発表会は、不思議な感覚を、ぼくに残しました。最後に成果を発表して終わった感じではなく、なんて言っていいのか分からない。

部屋に戻ったら、子どもたち、ぼくの近くにワラワラっといた。ぼくは、

「3日間終わっちゃったね」とつぶやいて、「どうだった?」と尋ねた。なんで、こんな聞き方したんだろう?

かなた(っていう少年がいるんだけど)が、「あーだった」って静かに応えた。あっそうか、あーだったのか。しばらく沈黙したあと、また、沈黙を破って「こーだった」って言ったんだ。その後、「けーだった」って言いやがった。へえー、この3日間は「けーだった」のかぁ。さらには、「あかさたなはまやらわ、だった」そうです。

そりゃそうだよな。言葉になんないもん。言葉になんないから、ぼくは音楽やってるんだもん。荒井さんだって、言葉にならないことを絵で描いているんだもん。言葉で言えないもん。言うならば、あーだった、こーだった、けーだった、としか言えないもん。理屈を越えてることなんだもん。

ぼくは言葉にならないから演奏し、全員と握手するでもなく、抱きしめるわけでもなく、全員のカラダで鍵盤ハーモニカを演奏した。バスの時間でみんなが帰っていった。

この続きは、明日の日記に。