野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

壊れてもいい音がする

ワークショップに数多くの楽器を持っていきます。安物の玩具など消耗品もあるので、壊れることもあります。8月3日のワークショップでも、おもちゃの一つが、突然、あっけなく壊れました。「あ、これボンドではっつけておくね」とぼくは言いましたが、その後の慌しい展開に、修理することを忘れていました。

あとから聞いた話です。ある子どもが、その楽器が壊れているのを見つけて、「あ、これ壊れちゃったんだね」といった上で、「でも、壊れてもいい音がする」と言ったのだそうです。ぼくは、その壊れた楽器を見て、そこからいい音がすることに気がつかずに、なおそうと思っていたのですけど、それは、既に新しい楽器に生まれ変わっていたんですね。また、一つ、教わっちゃいました。

3日間のワークショップが終わった後、子どもプロジェクトの遠藤綾さんが、荒井さん、ぼくのそれぞれに別個にインタビューをしました。荒井さんとぼくが、別々に同じことを言ったそうです。

割り切れない感じ、ナゾのこと。
荒井さんの言葉では、「はてな」。子どもたちに「はてなが残ること」を荒井さんはよしとしているそうです。絵本なんかでも、そうでしょう。でたらめに色を塗ったら、森みたいに見えたとき、「じゃあ、茶色を足して、木を描こう」と言った子どもに、「それは面白くないな、木は本当に茶色なのか?」と言った荒井さんは、分かった気になっていることを拾い上げて、分からないから素敵だ、と伝えていきます。「あいのて」の最初の打ち合わせで、番組のセットのスケッチを持ってきたときに、「わかんないですよ。わかんないですよ」を連発しながら、素敵な絵を見せてくれたのが荒井さんです。

それと同じことを、ぼくは昨日の日記に書いた「あーだった、こーだった、けーだった」=「言葉にならない」で、語っていました。

荒井さんとのコラボレーションは、3日間試行錯誤の連続で、常に変化し続けて、刺激的でした。できあがった作品は、いずれ「絵本カーニバル」で展示してもらえることと思います。全部、九州大学が保管します。

荒井さんは、ワークショップが終わった後、会場でサッカーをして遊んでいました。次のチャンスがあったら、サッカーボールで絵を描くワークショップみたいなこと、何かできないかなぁ。荒井さんとは、思いっきり遊び続けて、副産物のように作品が次々にできちゃうような体験ができるので、真夏じゃない時期に、またやりたいなぁ。

8月3日は、みんなが時間切れで帰っていきました。子どもたちはバスの時間があって帰って行きました。荒井さんは、飛行機の時間があって帰って行きました。ワークショップの余韻がもやもやと残っている状態で、はてなを持ったまま、みんな帰って行きました。そして、ぼくとスタッフが取り残されました。みんなどんな気持ちで帰って行ったのだろう?

九州大学子どもプロジェクト教授の目黒実さんと初めてじっくり話しました。この人は、驚くべきほどのホスピタリティの精神を持っていて、こちらとしては、大変居心地がいいです。そして、物事を簡略化して単純化して(許容される範囲内の歪曲もOK)、明快に断定口調で話をします。

アーティストというのは、言葉にならないことを「あーだった、けーだった」としか言わず、しかも、「はてな」を残したりする人です。そのアーティストと仕事をする目黒さんは、自分の役割を徹底して、逆に、言葉にします。しかも、乱暴なくらい単純な言葉で断定をするのです。これができる目黒さん、いいぞいいぞ!!応援します!