野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

アジアだじゃれ音Line音楽祭へのカオスな夜

フィリピンのダヤンと新プロジェクトが始まりかけているところだが、今日は、タイのアノタイの主催する国際会議で発表して欲しいという依頼がやってきた。昨年、彼女の国際会議で石橋鼓太郎くんが、だじゃれ音楽のリモートでの活動について発表した。タイとの関係も、いろいろ継続している。

 

宇城市不知火美術館に行ってみた。美術館では、宇城美展が開催。美術と言っても全て絵画で、彫刻とか陶芸とか映像とかインスタレーションとかはない。印象的だったのが、作家の名前の下に(松橋町)、(不知火町)、(小川町)、(豊野町)、(宇土市)、(熊本市)などと書かれていること。京都から来た者としては、全部、熊本じゃないか、と思うのだが、当人たちにとっては、同じ宇城市内でも合併前の町名が書かれていることが重要らしい。

 

9月12日に開催の『アジアだじゃれ音Line音楽祭』に向けて準備中だが、本日は、だじゃ研(だじゃれ音楽研究会)以外に、タイのAnant Narkkong、インドネシアのMemet Chairul Slamet、マレーシアのNg Chor Guanが勢揃いし、さらにはジャワ舞踊の佐久間新、タイの作曲家Anothai Nitibhon、カンボジア国境近くのタイのジーグデーク村に住むアーティストのYodとその子ども(ぱんぱん、ぷっぱ)、インドネシア語通訳に作曲家の平出さんも参加して、日本語、英語、インドネシア語タイ語が飛び交う多言語カオスのオンラインワークショップとなった(英語の通訳は、音まち事務局の西川さんが担当)。

 

今日は、アナン、メメット、チョーグゥワンの3人に、それぞれ30分くらいずつワークショップを進行してもらったが、3人とも全く違うアプローチだったが、3人とも音楽が視覚的なことと結びついていた。音楽と美術、音楽とダンスなどは、もともと別のことという感覚ではなく、自然に融合している。その3つのアプローチを体感するのが面白かった。リモートでのセッションになった時にも、視覚も聴覚も、第六感も、全感覚的にコミュニケーションをとっていこうとする態度が面白い。

 

いきなりアナンがヨードが作った竹のオブジェ(コオロギが楽器を持っている)を紹介して、ヨードが竹林に行って、オブジェを動かしながら、zoomで見せながら、それに合わせて即興でセッションをした。小さなオブジェの動きに合わせて、本当に遠く離れた場所の人々が共演する。遠くにある小さな虫のオブジェにヨードの携帯が接近しているので、遠いけど、すごく近くに入り込んでセッションしている感覚と、佐久間さん。コロナ禍に、タイの田舎の風景とセッションできることは、新鮮な体験でもある。

 

続いて、メメットの火の音楽。各自、部屋のライトを消して共演。火は視覚的にも面白いが、音としても面白い。燃える音は、時にエレクトロニクスのようでもあり、意外なサウンドになる。プリミティブな行為と最新テクノロジーの関係性について、メメットは色々考えているようなので、このあたりもじっくりインタビューで聞けると面白いと思う。火のセッションをしている時に、アノタイは掃除機の音を鳴らしたそうだ。しかし、水の音楽、石の音楽、火の音楽とやった次には、風(空気)の音楽を構想しているメメット。掃除機の風。火と風の出会い。面白い。

 

初めてだじゃ研と出会ったチョーグゥワンだが、柔軟な彼は、すぐに状況を理解して対応してくる。テルミンを演奏することで、体の動きと音楽の関係、視覚的なことと音楽の関係を強く意識することになったという彼は、画面共有してその場で絵を描きながら即興演奏を指揮していく簡単なルールを設定していった。

 

国際会議のこともあって、見学したいと参加したアノタイは、即興演奏に、ノリノリでフリースタイルでピアノを弾いたり、楽しそうに演奏していたのが印象的だ。今では、教授になって、学長だか副学長だか要職について、国際会議も運営して、偉い人になっているが、演奏を楽しむ姿は変わらない。そして、国際会議に、だじゃ研とのセッションを入れたいと提案してきた。ああ、アノタイだなぁ。こうして、また、どんどんアジアのネットワークが広がっていく。だじゃれ音楽の輪が広がっていく。今年のフェスティバルは、そういう種まきになっていくなぁ。