野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

子どもたちと音楽をつくって胸いっぱいになった/岡田健太郎さんとの打ち合わせ

福岡県春日市春日市ふれあい文化センターにて、ワークショップ。センターの樋口さんは、学生時代に卒業研究で野村誠の本を読んで卒論を書いたりした人で、2年前に企画した際も、本当に楽しみにしてくれていた人。昨年も企画していただいたが、コロナで延期になり、今年はなんとか開催できた。非常に嬉しい。

 

~ノムさんと一緒に”ふれぶん組曲”をつくろう~ | 春日市ふれあい文化センター

 

午前中は、未就学児のワークショップ90分で、午後が小学1−3年生のワークショップ2時間。ホールの舞台上に椅子を並べての開催。ホールの舞台で、ディスタンスをとりながら、子どもたちと音を出しながら創作して、最後には九州大学の映像チームが撮影して動画記録をとる、という企画。対面で子どもたちと思いっきり楽器の音を鳴らしセッションできたのは、非常に貴重な機会で、めちゃくちゃ刺激的だった。ぼく自身もこうした体験に飢えていたし、子どもたちも、ホールもそうだったのではないか、と想像できる1日だった。

 

まずは、午前中。未就学児は、保護者同伴で、家族ごとに椅子が人数分並べられて、ディスタンスをとる。各自、楽器や音の出るもの持参。筒、鍵盤ハーモニカ、すず、太鼓などを持ってくる。一方、ホール側は、鈴、カスタネットトーンチャイムなどの貸し出し用楽器を用意し、ビニル手袋着用し、使った楽器は消毒し、必要時には、子どもが借りれる体制をつくっている。ぼくが声を張り上げないでいいように、音響スタッフがつき、ぼくはピンマイクで話す。

 

ぼくは、もったいぶった説明や導入などの時間が惜しく、せっかく対面で音楽できるのだから、とにかく音を出してみようと始める。恥ずかしい子どももいれば、ノリノリの子もいる。ぼくもピアノで応じて、笑顔で、飛んだり跳ねたりする子どもの姿に触発されて、ますますピアノが激しくなる。恥ずかしそうな子に貸し出し楽器を勧めたりしていくうちに、それぞれが自由奔放に音を出す。座って演奏する子もいれば、立って演奏する子もいるし、ジャンプする子もいる。ぼくは演奏しながら、子どもがやっているリズムやフレーズを真似していく。筒を立てて、倒して、「うるさーい」という遊びができたりする。腕に鈴をつけてケンハモを吹く子がいるかと思えば、立って椅子に鈴やカスタネットを打ち付けて鳴らす子もいる。色々な奏法がある。最初は恥ずかしがってケンハモやらなかった子もいつのまにかケンハモやっている。遅れてきた子が、ケースから楽器を出してもらう。ウクレレだ。ウクレレにみんなで合わせてみる。通常は、ソドミラの調弦が、ドがシ♭になってて独特な響き。これに合わせて、ソシ♭ミラのトーンチャイムを鳴らしながら、ケンハモを鳴らすと神秘の響き。プップーという音が気に入った子がずっとケンハモでそれをやっている。それに合わせて、みんなでプップー。

3回プップーってやったら、みんなでシャラシャラと鈴を鳴らした。曲の最後はどうするかい?自由にしよう、と子どもたち。自由は本当に自由だった。床に寝転がってもいい。床に寝転がった子もあり。ぼくも床に寝転がりながらピアノを弾いた。自由に楽器でセッションしまくる90分だった。

 

午後は、まったく違った。1−3年生は、もう少し言葉から始まった。

 

大人っぽい曲

トトロ

モーツァルトのk.545

自然豊か

 

これが子どもたちの提案した本日の作曲のテーマ。では、このテーマを作るためにどうしよう、ということで、少し音を出してもらったら、ケンハモで既存の曲を弾いたり、ピアノを習っている風の子もいて、午前よりもいわゆる作曲っぽいことをやってみたいのかな、と思い、紙を配り、各自ドレミファソラシから一個書いてもらうことにして、それを集めてメロディーを作ることにした。すると、一つや二つ書くだけでは物足りなく、各自が次々にドレミを書いたり、音符を書いたりした。これを集めて、ぼくがピアノで次々に弾いた。どれもなかなか個性的。でも、みんなで演奏できるシンプルなメロディーを一つだけ作ろうと、それぞれの人の4番目に書いてある音を選んで、順番に書き出した。それがシンプルで美しいフレーズで、これをゆっくり合奏した。美しかった。もう一個作ろうというので、今度は何番目がいいか、と尋ねると、2番目を主張する子と5番目を主張する子がいたので、2番目と5番目を交互に選んでフレーズを作った。今度は、少し複雑で合奏が難しかったので、少し、楽しい雰囲気が曇った。ごめん、ごめん。練習みたいなことして。もう少し、遊ぼう。

 

ここで手拍子したり、ボデイパーカッションしていると、また楽しい感じに戻った。すると、一人が、リズムが「ことばにあわないよ」と言ったので、「ことばにあわないよ」と言いながら、ボディパーカッションをしたら、ますますアンサンブルがよくなった。じゃあ、これを楽器でやってみよう。みんなで楽器で「ことばにあわないよ」と鳴らした。大成功。じゃあ、別の言葉もやりたい!と言うので、何の言葉がいいかな、と聞くと、最初に言った

 

大人っぽい曲

トトロ

モーツァルトのk.545

自然豊か 

 

がいいと言う。これを二つずつ組み合わせて、とのこと。そこで、次は、「大人っぽい曲、トトロ」という言葉で手拍子を考えてもらい、これを楽器でやった。いい感じ。次は、「モーツアルトK545自然豊か」のリズムを考えた。これが変拍子で複雑で難しいので、休符を入れて調整する提案もしてみたが、なしでいいと言うので、みんなで複雑なリズムにチャレンジした。

 

ここまででも十分な成果なので、一度、小休止。その後、グランドピアノの中を見てピアノの仕組みを紹介したりして、ピアノ触りたいというので、少人数ずつ手指消毒して鍵盤を弾いてのち、後半。トーンチャイムの音色に興味を示した子がいて、みんなでトーンチャイムをした。すると、「自然豊か」の曲、これじゃないか、と子どもが言う。そして、一人ずつ順番に鳴らすと、ドレミファソと順番になったり、突然不協和音になったり、展開が面白かった。最後に、エンディングをみんなで考えた。レミファドーとか、ドレミファソ、とか提案してくれて、終わりは、ジャジャーン、ジャジャーンと上がっていくのだ、とのこと。

 

今日やったことを全部通してやってみようと、

最初のフレーズ→

言葉があわないよ→

大人っぽい曲トトロ→

モーツアルトK545自然豊か→

レミファドー、ドレミファソ、ジャジャーン、ジャジャーン

 を全部やった。言葉のリズムは、ぼくが言葉を言いながらやるバージョンと言わないバージョンと両方試したのも、子どもたちのアイディアだった。最後の発表が終わった時点で、残り10分あった。今日は十分集中してやったから、時間前だから終わってもいいと思ったけど、子どもたちの顔を見たら、達成感はあったけど、もっとやりたいようだった。だから、自由に演奏した。発表でも撮影でもなく、ただ自由に演奏。思いっきり音を出した。なんだか、コロナを吹き飛ばそうと演奏しているような気分にすらなる演奏だった。コロナの1年半で知らず知らずのうちに抑圧されてきた何かを吹き飛ばすような気持ちの入った音を、子どもたちと、そして同伴の大人たちも一緒になって音を出している。それは、清々しいものだった。今日、これができてよかった、と思った。終わったら、2曲目もできたね、と子どもが言った。ディスタンスをとっていたけど、帰り際に近くに来て、挨拶して帰っていったら、ツーショットの写真を撮りに来たりして、ありがとう、ありがとう、と挨拶して別れた。明日は、4年生以上のグループ。また違った時間になるんだろう。胸がいっぱいになる1日だった。

 

夜は、滋賀での「ガチャ・コン音楽祭」で車内放送プロジェクト、さらにはワークショップでも関わっていただく、シンガーソングライターの岡田健太郎さんとお会いして、ミーティング。滋賀在住だが、たまたま現在、九州ツアー中。9月のワークショップもすごく楽しみ。