野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

メシアンとセッション/ガムランのこと/巖埼友美リサイタル

YouTubeを開くとメシアンのオルガンの即興を推奨してきた。メシアンがせっかく即興してくれるので、これに合わせて即興でピアノを弾いてセッションしてみた。セッションしながら、そう言えば、今年の夏にはオルガンの新曲を書く予定であったことを思い出す。

 

昨日の続きで、Gamelan Composers ForumのYouTubeチャンネルのために野村誠ガムラン作品の解説文を作文。なんとなく、1996年に初めて作曲した「踊れ!ベートーヴェン」で、宮廷音楽であるガムランを庶民感覚の音楽にするために、トイピアノ、ケンハモ、子どもたち、異質なゲストなどをガムランに追加した話。徐々に楽譜を書くところから口伝や身体の動きや共同創作に移行した「せみ」、「ペペロペロ」、「桃太郎」。そして、2010年代の「千住の1010人」のようにガムランにタイのピパートや邦楽など様々な音楽が混在する作品群(「青少年のためのバリバリ管弦楽入門」など)。そして、Gamelan Composers Forumのために作曲した「No Notes VI」や「ルー・ハリソンへのオマージュ」などのことを書いた。これでビデオ撮って、ロンドンのアリスに送らないと。

 

本日は、ヴァイオリニストの巖埼友美さんのコンサートを聴きに行った。巖埼さんは、《問題行動ショー》、《ルー・ハリソンへのオマージュ》のレコーディングでも大活躍してくれたヴァイオリニスト。

 

syueki4.bunka.go.jp

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そして、巖埼さんは、コロナで演奏会が次々に中止になった時に、危機意識を持ち、日本センチュリー交響楽団楽団員有志で自主的にウェブコンサートを始めた人でもある。コロナ禍の1年を経て、彼女がどのような演奏会をするのか非常に楽しみだった。緊張している1曲目は、ウォーミングアップも兼ねて得意な曲や軽めの曲で始めたいものだが、いきなり北口大輔編曲の超難曲バッハで始まる。そして、2曲目が始まる前には、巖埼さんの詩の朗読の音源が流れる。2曲目のサーリアホは、微弱な音だったりするので、少しでも緊張で手が震えでもしたら、台無しになってしまう曲だけど、これが2曲目。手堅くとか、守るとか、そういう気持ちではなく、挑戦しようという意欲に溢れている。そのままブラームス、休憩、ラッヘンマン、詩の朗読、ドボルザークを経て、最後のバルトークのヴァイオリンソナタ第2番が凄かった。この音楽を、あっさりとか、軽やかに演奏することもできるだろうけれども、そこにはコロナで混乱した1年間の戸惑いや思いや苦悩やもがきなどが、凝縮されて全部が音楽になって湧き上がってくるような感じだった。だから、バルトークの音楽は20世紀に作曲された過去の音楽のようには聞こえず、2021年を生きる人々のために作曲され、2021年を生きる今について語りかけてくるような音楽のように聞こえた。17世紀だろうが、19世紀だろうが、20世紀だろうが、過去に書かれた古典音楽であることには変わりがない。でも、今、生きている演奏家が今の聴衆に向けて演奏することで、その音楽は雄弁に物語を語る。その物語を聞くことができたことは、とても貴重な体験だった。