野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

流れ星(ポルテあすなろでの歌作り)

日帰りで東京へ。東京芸大の酒井雅代さん(音楽家)、山崎朋さん(ダンサー)、石川清隆さん(ワークショップ研究)のムジタンツの企画で、母子生活支援施設のポルテあすなろへ行く。ポルテあすなろの橋本久美子さんの熱い思いがあり、子どもたちの言葉から歌を作りたい、とのことで実現。

 

DV問題に取り組むカウンセラーの草柳和之さんの委嘱で、ぼくは《DVがなくなる日のためのインテルメッツォ》を作曲し、さらには、《DV撲滅ソング ー DVカルタを歌にした》を作曲したことがある。虐待から避難してシェルターでの体験なども取材して作曲したが、母子生活支援施設という所に足を踏み入れるのは初めて。とは言っても、4階のホールにてワークショップ。居住空間は別の階にある。学童の子どもたちなどが集まってくる予定が、参加の子どもは少なかった。でも、その中で最初は既存の曲を歌っていた低学年の子どもと、作詞/作曲をすることができるか、手探りで関係を築いていく中、徐々にゲラゲラ笑い転げてくれて、距離も近づいていき、ついには深く深くに作詞/作曲にのめり込み、結局、3時間ずっと彼女と歌を作った。それは、こんな歌詞の歌だった。

 

またねと言い、流れた涙

心に残った気持ち

君とずっと離れたくない

ああ流れ星、この願い叶えて

あの人とずっとそばにいたいんだ

私はずっとそばにいたいんだ

泣いてないで前に進もう

 

ぼくは、ポルテあすなろのことを、詳しく知らない。もちろん、彼女のことも知らない。家庭の事情も知らない。ただ、子どもたちと歌を作ろうと思って、やって来た。そして、橋本さんの依頼で、あだりチャリネットの歌を作るつもりだった。自転車で足立区の複数の団体が行き来し繋がっていくための歌をつくるつもりだった。でも、ただただ、子どもから出てくるものに寄り添っていったら、メロディーができて、歌詞ができた。それは、別れと涙についての思いを歌った挙句に、でも前に進もうという歌詞だった。母子支援センターということは、両親に何らかの別れがあったのだろう。子どもと父親との間での別れもあったかもしれない。それに伴って、学校が変わって友達との別れがあったかもしれない。いっぱい泣いたかもしれない。この歌詞は、母子生活支援施設ポルテあすなろに暮らす人の心を代弁しているかのようだった。「消さないでー(涙)、消しますよー(笑)」と歌って、あんなにゲラゲラ笑い転げた後に、こんな言葉が出てくるんだ。いや、笑い転げたからこそ出てくるのか。子どもから、色々教わったなぁ。