野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

集ない人々のための新曲について

4月末に始まった「四股1000」は、3ヶ月継続して、いよいよ4ヶ月目に入る。最初は、ただ四股を踏むだけで、1000回カウントするだけだったのが、100回カウントの仕方が多様化して、歌ったり、楽器をしたり、朗読したりする。ぼくは、いつの頃からか、相撲に関する文章を読むことになり、ついには2016年、2017年に行ったJACSHAフォーラムで相撲と音楽についての対談を読むようになった。1日、1000文字くらい読むので、毎日、1000文字程度のテープ起こしをしていくうちに、貴重な対談の録音を文字化してアーカイブする仕事が進んでいる。今日は、2016年頃に、鶴見幸代が相撲太鼓のリズムで作品を量産していた話。太棹とチェロのための「弦築」、中近東の楽器なども入った「Butsukari」、ピアノ独奏の「Sumo Piano Taiko」など。

 

日本センチュリー交響楽団首席チェロ奏者の北口大輔くんを、月刊武道編集部に紹介し、高砂部屋マネージャーで元力士の一ノ矢さんの「四股探求の旅」の連載の中で、北口くんのチェロを演奏する写真が使われることになった。これが縁で北口くんが月刊武道にエッセイを書くことになったらしい。相撲界と音楽界の橋渡しをすることができて、嬉しいニュース。

 

 

9月6日の北斎バンドのコンサートに向けて、新曲の作曲作業を開始。今月に開催したワークショップの内容を下敷きにした4つの小品。4つの異なるアイディアを箏の13弦にどのように調弦するかを考えていく作業。

 

続いて、「世界のしょうない音楽祭」に向けて、大阪音大の井口先生、日本センチュリー響の柿塚さんと打ち合わせ。今の状況を考えると、実際に集まってワークショップやコンサートができる状況になっている可能性の方が低いので、例年と同じやり方ができない場合、どうするかについて考える必要がある。今年の様々な打ち合わせは、ほとんどが二本立てで、ケース1、ケース2などを想定して計画する。結局、計画しても、また想定外のことが起こる。でも、想定外のことが起こることも想定の範囲内にしていると、ストレスも少ないので、想定外のことが起こるんだろうと思っている。想定しているのは、大阪音大の先生方やセンチュリー響の音楽家たちの意識が高く、充実した音楽体験になるであろうということ。

 

打ち合わせの後、束の間の大相撲観戦。新大関の朝乃山が勝ち優勝争いトップに並走。横綱白鵬が破れ、優勝争いから一歩後退。元大関で怪我で序二段まで陥落してから奇跡のカムバックの照ノ富士もトップに並走。明日は朝乃山と照ノ富士。どちらも勝たせたい。

 

その後、音まち事務局と「千住の1010人 in 2020年」に向けてのミーティング。3月末に判断し、5月31日の開催を10月に延期した。10月だと早すぎる気はしたが、助成金などの事情があって、10月に開催となった。で、10月31日は3ヶ月後なのだが、新型コロナウイルスは相変わらず大流行中で、もともと予定していたプログラムと全く同じことはできそうにない。でも、来年などに延期せずに10月にしてよかったと、今は思っている。この時期に、どうやって「千住の1010人 in 2020年」を開催するかという無理難題を突きつけられ、それを実現するためのアイディアを考えまくること。これには、恐るべきほど鍛えられる。延期するのは簡単。中止するのも簡単。実施するのは、ほとんど不可能に近い。オンラインを駆使したって、1010人で合奏している体験を創出するのは、絶望的に困難。だからこそ、今、この難題に向き合っていられることは、非常に幸福だと思う。ここで頭を捻りまくるのは、本当に得難い体験になる。感染リスクを回避することと、新しい音楽の創出をすることと、集まれないのに集まった感触を生み出すこと。こんな大きな仕事を与えられて、非常にやりがいがあり嬉しい。やっぱり、ぼくは変態なんだなぁ。

 

そして、だじゃ研(=だじゃれ音楽研究会)で、5月31日に演奏するつもりで野村が作曲した「帰ってきた千住の1010人」をZOOM上でリモート合奏をした。やってみると、普通だったら簡単に合奏できることが、全然効果的でなかったり、普通だったら大して面白くもないことが、予想以上に効果的だったりする。今月4回に渡ってだじゃ研と「帰ってきた千住の1010人」を試した。だじゃ研のメンバーも音まち事務局も、色々、一緒に音を出し考えてくれて、本当に感謝。実際にリモート合奏にアレンジできる可能性も探れた。と同時に、リモートに向いていない箇所も様々にあった。これらを踏まえて、ぼくは、もはや「帰ってきた千住の1010人」の上演に固執することを止めようと思った。「帰ってきた千住の1010人」は既に作曲したので、いずれ人々が集える時代になったら、初演できる。今のような人々が集ない時期になって、ぼくは集ない人々のための新曲を書き下ろすべきだ。2020年にしか書けないし、2020年にしか上演できないような曲を書こうと思う。