野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ぼくらは無力ではない!くつがえさー!

鈴木潤さんと日本センチュリー交響楽団の楽団員のためのワークショップ講座2日目。今日は、モード、リフ(オスティナート)を中心にした即興音楽講座。レゲエもブルースもやった。

 

潤さんの話で印象的だったのが、ワークショップでルールから逸脱する子どもの動きが面白かった。しかし、それは先生的な問題行動で、先生が注意をする。潤さんが、先生に、注意しないように伝える。しかし、何度言葉で注意しないように先生に伝えても、先生は注意したのだそうだ。つまり、潤さんが言っている意味、その感覚が、言葉での説明では、どうしても先生に理解できなかった。

 

潤さんが知人に相談したところ、それは潤さんの負けだと言われた、とのこと。言葉で伝えようとしても、体感として納得しない限り、先生は理解できない、と。だから、対話をすることなどせず、ワークショップの中で、その問題行動が面白い音楽だと感じられるような強烈なパフォーマンスをして、印象付けるべきだ、と言われたとのこと。すぐにわからないとしても、それが一番可能性があると。なるほど。それにも一理ある。

 

ぼくが以前、小学校でのワークショップで、どうしても人の話が聞けない小学校の先生がいた。その小学校の先生は、ぼくの話をどうしても聞けなかった。その理由は、校長先生からの命令で、アーティストに好きに授業をさせるな、アーティストを使って教師主体で授業をしろ、と言われていたからだったと、後でわかったが、その時には理解ができなかった。ぼくは、粘り強く対話を続けたが、伝わらず、授業の時には、ぼくにとっては明らかに妨害になる行為を、先生たちは意図的に続けた。ぼくは、徐々に疲弊し、最後に諦めた。諦めて、最後の授業で意図的に爆発してみた。テレビカメラの回る前で、大声で怒りを全身で表現し、校庭を絶叫しながら全力疾走するという奇行に出た。そして、呆然とした先生たちは、その授業では、授業を妨害する行為はしなかった。最後のワークショップは、ぼくにとって平和に進んだ。言葉で伝えられなかったことを、全身でもパフォーマンスで、伝えた成果だったとも言えるし、そうでない方法はなかったのか、とも今でも思う。

 

こうした体験は、「表現の不自由展」を巡って、賛成する人と反対する人が、対話をしても、言葉ではお互いに納得できないことに似ているのかもしれない。

 

先週、フランス人たちと仕事をしていた。フランス人たちが、どんどん主張していき、日本人の控え目な意見や提案などは、最初、ほとんど届かない。口数少なくても察する日本文化を払拭して、フランス人に伝わる自己主張をしないと共通のテーブルにあがれないのだ。しばらくして、日本人は、何がなんでも自分の意見を伝えなければ、と決死の覚悟で伝える。怒ったりするかもしれないし、喧嘩ごしかもしれない。そうやって主張すると、フランス人たちと対話の場が持てるようになり、最後には建設的な話し合いになった。もちろん、この時は、お互いに尊敬しあっている関係があったから、最後にお互いが納得できる場ができたのだろう。それでさえ、対話の状況に持ち込むまでに、本気で怒ってみたり、決死で主張したり、譲れない部分を主張する行為があって初めて実現できた対話の場だ。

 

コーディネーター、通訳、橋渡し。こうした役割がいないと、対話にすらならない。喧嘩にすらならない。行司がいないと相撲にならない。裁判官がいないと裁判にもならない。でも、自分の大切なこと、大切な気持ち、大切にしていること、それを全力で守る。全力で守るために、怒りを表現したり、言葉で言ったり、全身で表したり。そうしたことが常に有効とは限らないけれども、でも、それを全力で守るために、力一杯立ち上がる。

 

別の例。10年前、大阪府知事橋下徹は、オーケストラは不要だ、と言った。大阪センチュリー交響楽団は、自分たちの活動の意義を様々な形で主張し、署名も集めて、訴えた。両者の主張は平行線で、大阪府はオーケストラへの支援を全額打ち切る、という断行をした。

 

自分たちの存在を全面否定されても、日本センチュリー交響楽団と名前を変えて、苦しい財政の中、数年も持たないと言われたオーケストラは、今も存在して、オーケストラは不要ではない、と態度で示し続けている。少なくともマネージャーの柿塚拓真は、淡々と戦い続けている。ぼくは、その淡々とした戦いに賛同して、笑顔で戦っている。まだまだ、ぼくらの戦いは甘いのかもしれない。手ぬるいのかもしれない。でも、一歩でも前に進んでいくこと。手遅れかもしれないけれども、まだ手遅れでないかもしれない。ぼくらは無力ではない。微力だ。微力はゼロではない。微力な活動も続けていけば、力になる。日本センチュリー交響楽団!日本センチュリー交響楽団!くつがえさー!