野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

天才少年の自由な音楽

日本センチュリー交響楽団の小川和代さんのヴァイオリンリサイタルのために新曲を作曲している。小川さんは数年前より、野村とのワークショップに参加していて、本人によると、他の楽団員の人が楽しいと言っている評判を聞いて参加したのが最初らしい。即興もワークショップも未知の世界で、最初は、本当にどうしていいのか戸惑うし、楽しむこともできなかったという。しかし、小川さんは色々なことにチャレンジされて、ワークショップもやるし、即興もするしで、ついには、2018年の1月には、前田文化での解体工事との即興コンサートで、ヘルメットを装着して、工事のノイズとヴァイオリンで共演した。その小川さんが、長年やっていなかったヴァイオリンリサイタルを、今年の12月に開催することになった。その大切な久しぶりのリサイタルで、ベートーヴェンを弾くだけでなく、野村とやってきたコミュニティ・プログラムでの経験を生かしたプログラムをやってみたい、と提案があった。柿塚プロデューサーの提案で、JACSHA(日本相撲聞芸術作曲家協議会)が作曲するプログラムになった。つまり、ベートーヴェン、鶴見幸代、樅山智子、野村誠の4人の作曲家の音楽で構成されるリサイタルをする、というのだ。

 

というのが背景で、今、ぼくは作曲している。テーマは相撲なのだが、相撲は様々な要素があるので、今回は呼出しさんが力士を呼び上げる「呼び上げ」にフォーカスして作曲することにした。「ひがーしーー、あさのやまーーー。にーしーー、、、、」というやつである。これを主題にした変奏曲を書いていて、今6番目の変奏くらいを書いている。面白いもので、呼び上げだけに限定して書いているのに、なぜか、立ち合いの「待った」みたいな音楽になったり、行事の「のこった、のこった」のようになったり、力士がカラダをパチパチ叩くボディパーカッションが加わると良い感じになったりする。そうして、いろいろ入ってくるものは、排除しない。相撲の良さは、本当に儀式であったり、エンターテインメントであったり、伝統なのに、テクノロジーを駆使したり、そういう風に混在しているところが、本当に魅力で、だから相撲をテーマに作曲するからには、そうして混在してくる雑種な音楽になる。作曲に濁点をつけて、雑曲と言ったことがあるが、まさに、雑曲かもしれない。複雑の雑。雑誌の雑。雑学の雑。音楽は、雑楽でいいのかもしれない。そして、作曲していると、小川和代さんのことを思い出す。彼女が演奏していることをイメージすると、いろいろ湧き上がってくる。

 

さて、今日は、作曲を途中にして、健康診断に出かけて、尿検査は異常なし、血圧は相変わらず低め。血液検査とレントゲンは結果待ち。とりあえず、やっと健康診断に行けた。

 

その後、小学校2年生のJくんと音楽で遊ぶ日。行くなり、今日は野村くんとシンセサイザーで遊ぶ、と言って、シンセやらシークェンサーやらがパッチで繋がっていて、いろいろボタンを押したり、ケーブルをつないだりして、遊ぶ。そのうち、電子ピアノで急に、エンターテイナーやらドビュッシーやらを楽譜で初見で弾かさせられて、彼はそれに合わせて、スライド笛やオタマトーンで即興したり。電車やバスのミニカーの車輪の擦る音でリズムをとったり。積み木でリズムを奏でたり。とにかく自由。そして、彼が幼稚園の頃にレコーディングした謎の作品を聞かせてもらう。もうこれが、どうやって作ったのか謎なのだが、ジョン・ケージもびっくり、ベルント・アロイス・ツィンマーマンもびっくりの驚きのコラージュされたアバンギャルドな音楽で、面白過ぎて感動する。どうして、こんな自由な音楽をつくれるのか。こんな特異な才能を、ぼくだけが味わっているのがもったいないくらいだ。

 

こうして、Jくんの刺激を受けてのち、また家に戻り作曲を続ける。それにしても、彼の音楽は面白かった。