野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

障害からひろがる表現とケア 2日目

九州大学に来ている。「身体表現ワークショップ 障害からひろがる表現とケア」の二日目。ワークショップのタイトルから、この二日間10時間のワークショップのぶっ飛び具合は、なかなかイメージできないかもしれない。ワークショップの講師として二日間関わったのだが、関わった当事者として、少しでも現場の空気を伝えられたらと、言葉にしたい。

 

今朝は10時半からスタート。まずは、里村歩さん(あゆきち)のレクチャー。あゆきちは、レクチャーの原稿を、事前に長津くん(長津結一郎=九州大学の先生、この企画の首謀者)に渡していて、アユキチが一文語ると、同じ内容を長津くんが語る。本人曰く、アユキチの言葉は言語障害があり聞き取りづらい。でも、文字ボードを指してコミュニケーションをすると、相手の表情を見て会話することができないので、もどかしい。アユキチが一生懸命語る声を、息を呑んで聞く。そして、長津くんが同じ文章を語る。アユキチの言葉と長津くんの言葉は、同じ文章の反復なのだが、全く違うテンションで繰り返される。アユキチが演劇を始めた時のこと、演劇で思いを伝えるとはどういうことなのかを模索した体験談。そして、思いを込めた声。全身全霊で発せられる言葉は、うた、そのものだった。うた、うったえる、うた、うたれる、うた、うた、うた。ぼくは、このアユキチのレクチャーという歌の伴奏をしたいと思った。今度、ピアノで伴奏したいと申し出た。アユキチも承諾してくれた。

 

続いて、廣田渓さん(ケイ)のレクチャー。ケイは筋ジストロフィーという障害があり、筋肉が衰えていくという。ケイの発語は非常にクリアで、会話には何の障害もなく、理路整然と自己の体験を語ってくれる。演劇を始めた時に、いかに恥ずかしかったかも語ってくれる。そして、重度障害者が重度障害者を演じる演劇をした話をしてくれる。昨日のモリッチは、体の力が抜けず、エネルギーを消耗するので、それに適う筋力トレーニングをしていた。逆に、ケイの場合は、筋肉トレーニングをすると、筋肉が消耗し回復せずに、どんどん筋力が落ちてしまうので、決して筋力トレーニングをしてはいけない。身体障害と一言で言うが、それぞれ全く違う。そして、それぞれの全く違う体、まったく違う困難、まったく違う努力や工夫があり、それぞれの個性がある。ケイの体をみんなに触ってもらう時、アユキチとモリッチが上半身裸になって、マッチョアピールを始めた。

 

そして、ケイとアユキチで、昨年12月にやった演劇公演のワンシーンを、急にお願いしたら、やってくれた。これは、本当に笑い転げるほどに面白かった。二人で電動車椅子を操作しながら、絶妙な掛け合い漫才をする。

 

昼食前に、ワークショップ参加者全員で自由に身体を動かし、楽器を鳴らす時間を設けた。つまり、自由な集団即興。ぼくは途中からピアノを弾いた。ピアノは、全身を使って全力で弾かなくても結構、演奏できる楽器でもある。でも、モリッチが、歩いている行為は、全身で全力で行うフルパワーの行為だ、とのメッセージに触発され、できる限り、自分の全力でピアノを弾いてみようと思って、弾いた。もっと体力を使って弾けるのではないか。もっと全身の力を全部使ってみようと思って弾いた。汗がどんどん湧き出るまでは弾こうと思って弾いた。遠田誠も全力で踊っている。それぞれの人が、それぞれの身体にとって、それぞれの気持ちにとっての限界と格闘していた。エネルギーを十分に使い果たして、昼食へ。

 

昼食は、みんなでお弁当持参で食べる。交流することも、そして、食事の介助を交代でする。ここでの交流も濃密。

 

午後の講座が始まる頃、ケイがピアノを弾いている。それは、不思議な不条理な雰囲気を醸し出す怪しげな音だった。ケイはどうして、このようなピアノが弾けるのだろう。ジョホンコ(=倉品淳子)が即興でセリフを言っている。ぼくも、鍵盤ハーモニカで加わり、途中からトイピアノ、さらには、声のパフォーマンスへと移行していく。エンちゃん(=遠田誠)も全霊で踊っている。何人かワークショップの参加者も加わって、おどろおどろしい即興が続いていると、メイ(=吉野さつき)が「門限です」と言って、強制終了。我々、「門限ズ」には、「門限です」と言う強制終了システムがあり、この強制終了があるからこそ、いつでも安心して、遠出できるのだ。

 

午後は、メイによる午後の進め方の説明に、エンちゃんの悪の化身が足つぼアタックをする「レクチャー✖︎足つぼ」で開始し、3グループに分かれて、昨日の遠足を題材にパフォーマンスを創作した。3グループともに、演劇、ダンス、音楽の要素が入った短いパフォーマンスをつくっていて、しかも、どれも違うキャラクターになっていた。

 

その後、それらの3つに、門限ズが演出をトッピングして、発展させるコーナーをして、気がつくと2日間10時間の講座は、既に9時間35分が経過していた。

 

そして、最後に、長津くん司会進行によるディスカッションの時間。10時間を超過して、16時を過ぎて終了した。皆さん、本当に本当におつかれさま。

 

印象深かったのは、記念撮影の後も、帰らずに語り続ける人がいっぱいいたこと。1時間経ってもまだ話続けていて、部屋を追い出されても、さらに、1階のロビーで語り場が続いたこと。

 

昨年も面白かったのだが、今回、身体障害のある3人の講師と、門限ズが、昨年以上にコラボできた実感があり、これは、本当に面白いカンパニーと言えるのでは、と思えた。そして、自分自身50歳という年齢で、今後も身体表現を続けていく上で、老いによる身体機能の低下は、全く無視できる問題ではない。しかし、重度の身体障害がある彼らにとって、わずかな身体機能の低下は、歩行から車椅子へ、車椅子から寝たきりへ、と日常を激変させることに直結する。だからこそ、身体機能を維持するために、トレーニングだったり、マッサージだったり、日々努力している。ぼくは、自分自身が自分の体調管理に自覚的であるつもりだったが、自分がいかに自分の与えられた身体を大切にしていないかを、あらためて自覚させられた。彼らの努力を思うと、ぼくがぼくの身体機能をフル活用するために、できることはまだまだある。これまで、ぼくは老いによる体力低下に対して、脱力による体力セーブの方法を体得することで、カバーしようと思っていたのだ。しかし、体力セーブができるようになることと同時に、そもそもの筋力を維持したり、体力の低下に抗う努力をすることで、パフォーマーとして、まだまだ成長していけると、今後の可能性を示された気がした。本当に、素晴らしい教えをありがとう。

 

夜は、門限ズで、鳥取での11月2日、3日に行うゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」に向けてのミーティング。公演の構成案を具体的に作成。ぼくの来週の音楽ワークショップ、7月の演劇/ダンス/音楽の合同クリエーションに向けて、具体的な道筋を詰めていくことができた。福岡の良いエネルギーが鳥取にも飛び火していきそうだ。