野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ポストワークショップ

野村さんは、いろいろなところでワークショップをやっていますけど、ルーチンにならないんですか?いつも、新しい発見がありますか?

 

昨日、質問された。はっきり言って、新しい発見がないのならば、ワークショップを断るだろう。実際、毎回、いろいろな現場で、新しい試みをしているし、新しい発見がいっぱいあるのだ。

 

ところが問題なのは、こんなに新しい発見があったりするのに、そのことがその場にいなかった人とシェアされないことだ。つまり、そこで、どれだけの出来事が起こったとしても、そこにいなかった人にとっては、何もしていなかったことになってしまう。または、毎回、同じようなことが起こっていたのだ、と思われてしまう。そして、さらには、その場にいた自分自身でさえ、そのことを忘れてしまいかねない。

 

だから、そのことを、どうやって残すのか。どうやってその場にいない人とシェアするのか。それが、ぼくの大きな課題になった。そのことを、ぼくはポスト・ワークショップと呼ぶようになった。ワークショップの前に準備するよりも、ワークショップの後に、そこで起こったことを、もっともっと味わうことに価値を置くようになった。だから、ワークショップで起こったことを下敷きに、ポストワークショップとしての作品をつくるようになった。それは、自分自身が体験したかけがいのない時間と発見を真空パックするような感じだ。

 

昨日、一昨日のワークショップ参加者の一人から、「10年前の福岡市美術館でのワークショップに息子が参加していて、『ルーレットNo.1』という絵を演奏しました」と声をかけられた。ぼくは、この10年間の間に、福岡市美術館でのワークショップに基づくピアノ曲集を何度も演奏してきたので、「ルーレットNo.1」と言われただけで、10年前にクラリネットを持った彼が、どんな演奏したかを、瞬時に思い出せる。福岡市美術館でのワークショップでぼくが受け取った刺激は、ピアノ曲という形に変わり、ずっと咀嚼し続けている。

 

しかし、すべてのワークショップに対して、ポストワークショップとしての作品をつくっているわけではなく、時間があれば、まだまだ作りたいポストワークショップの作品が山ほどある。

 

昨年3ヶ月、香港のi-dArtの招聘で、香港の知的障害の人々と膨大な数のワークショップをし続けた。そのことを自分なりに咀嚼するのが、6月29日のノムラとジャレオとサクマの「問題行動ショー」だ。京都に戻って、また少しだけ作曲した。作曲するたびに、香港での日々のことを思い出している。

 

6月29日には、13名の強烈なパフォーマーが香港からやって来る。彼らの着る衣装のリクエストを4月に伝えたのだが、今日は、衣装の写真が送られてきた。

 

福岡から京都に戻り、洗濯して、ちょっとだけ作曲して後、日本相撲聞芸術作曲家協議会の打ち合わせ。

 

 

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