野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

シュトックハウゼンのすべて

鳥取での滞在が終わり、京都に戻る。帰りの高速バスで、偶然、広崎千里さんと一緒になり、京都駅でランチをする。結局、行きのバスも帰りのバスも、偶然に人と出会った。

 

家に戻る。注文していた松平敬さんの「シュトックハウゼンのすべて」という本が届いている。シュトックハウゼン(1928−2007)という作曲家は、ヘリコプター四重奏から、電子音楽から、複数のオーケストラから、テキストによる直観音楽まで、本当に素直に色々なことをした作曲家なので、この作曲家の「すべて」が書いてあるなんて、てんこ盛りな本なんだろうと思って中をめくってみる。ところが、非常に簡潔であっさりさっぱりテイストに、びっくりした。松平さんは、コッテリなシュトックハウゼンの作品たちを、それぞれ非常に簡潔明瞭に書いてくれている。シュトックハウゼンの全作品について書いたRobin Maconie著「other planet」という600ページ近いコッテリした本があるが、松平さんの本に比べると、断然、胃もたれする本で、なかなか読了できずにいた。松平さんの本、斜めに眺めただけだが、これは間違いなくオススメ。

 

例えば、3群のオーケストラのための「グルッペン」と4群のオーケストラと4群の合唱団のための「カレ」がいかに違う曲であるか、を知りたければ、この二つの曲について、それぞれ図解なども含めて4ページほどを読むと、エッセンスが凝縮されて読めるし、そもそも、以下の一行だけでも、読者は明確にイメージを持つ。

 

『グルッペン』は、音の粒子が細かく動き回る動的な音楽であったが、『カレ』では、時間が静止したかのようなゆったりとした持続音が全曲を支配する。

 

このような記述ができるのは、松平さんが学者ではなく演奏家であり、演奏家が作曲家の複雑な楽譜を読み解き、それを聴衆に伝える作業を常に行ってきたことが、著作にも活かされていると思う。シュトックハウゼンに詳しくなくてもアクセスできる名著であると思う。

 

今、「鳥取銀河鉄道祭」に関わっているので、88星座の音楽を作りたい気持ちもしている。シュトックハウゼンは、シリウス黄道12星座のための音楽(ティーアクライス)も作っているし、シュトックハウゼンの音楽を勉強し直して、ぼくなりの星の音楽のことを、改めて考えてみたい。

 

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