野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

バンコクの七絃琴

ジャカルタからバンコクへ飛ぶ。南緯5度から北緯10度へ、3時間ほどで移動。空港には、アナンの民族音楽学の大学院生ボーイとジュークがお迎えに来てくれる。35度、ジョグジャより遥かに熱い。車に乗ってバンコク市内へ。外の温度は38度。げげっ。大通りから路地に入って行くと、ストリートフードがいっぱい。どうやら滞在先の近くのようだ。10階だてのマンションだ。エレベーターで降りてきたトゥルンが、案内してくれる。「ぼくは、アナンの出来の悪い学生なんだよ。」とトゥルンは言う。若いが堂々としていて、臆せずに英語を話すトゥルンに連れられて、8階へ。12畳ほどのリビングにソファー、備え付けの棚や小型冷蔵庫、10畳ほどのベッドルームには、ダブルベッドとテレビがある。トイレとシャワーがあり、キッチンがない。二部屋ともにエアコンがついている。このマンションは、トゥルンの親が持っているマンションらしく、トゥルンは10階に住んでいるらしい。トゥルンの部屋に行くと、そこは10階ほぼ全部が彼の部屋だった。

いきなりビールで歓迎される。イスラム教徒の多いジャワではビールを見ることはないので、珍しい光景。トゥルンもジュークも、その友人もビールで酔っぱらう。トゥルンの部屋には、ギターも、チェロも、ピアノも、中国の三味線、様々な弦楽器などがあり、ギターアンプが何台か無造作に置いてある。しかし、ピアノの上に置いてある珍しい楽器に目がいった。北斎漫画四重奏の画にあった七絃琴があるではないか。日本では平安時代などに演奏されたが廃れ、その後、江戸時代に明清学として再度輸入されたが定着しなかった七絃琴(古琴)。北斎漫画の四重奏でも、琴の代わりに十三絃の箏で作曲した。トゥルンは、七絃琴を弾いてみせ、さらに、中国の北京に住む古琴の楽器製作者で演奏家の人から楽器を購入したらしく、これは、鹿の角を削ってコーティングして、1ヶ月置いて、同様にコーティングして、という作業を7回繰り返すんだ、とか、彼は北京オリンピックの開会式で演奏したんだ、とか、色々言って、関連資料を見せてくる。バンコクに着いたところで、休みたいが、古琴の説明に勢いがついてしまう。アナンの出来が悪い生徒と自称するトゥルンは、どうやらアナンの優秀な生徒のようだ。

その後、トゥルンと仲間達に連れられて、タイの食堂に行く。インドネシアでは食べたことのない複雑な味と、注文する料理の量に圧倒される。美味しいし、辛い。もち米もうまい。部屋の模様替えをして、生活の基盤づくり。