野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

熱タイ音楽隊(バンコク)5日目

バンコクの滞在もいよいよ最終日。古琴奏者のChatchol Thaikheawの家を訪ねる。バンコクの郊外、国道のような大通りから小道に入り、閑静な住宅地の中の一角。家の門を入ると、くねる飛び石の小径を通り、「元韵山房」という名の彼のスタジオに着く。中国の25絃の瑟、そして、古琴と呼ばれる七絃琴、そしてオリジナルモデルの十七絃などがある。ここへ来るのは2年半ぶりだ。チャッチョンは、中国茶(白茶)を入れてもてなしてくれて、その後、お香をたき、お茶、お香と、古琴の音を一つのセットとして提示してくる。そして、中国の哲学について、熱く熱く語る。記譜の仕方についても解説してくれる。

衝撃的だったのが、絹糸の古琴、ナイロン弦の古琴、スチール弦の古琴の3つを聴き比べたこと。スチール弦の楽器は音量が出るが、絹糸の楽器のような繊細な表現の幅に乏しく、絹糸の楽器を聞いた後では、物足りない。一方、日本の箏も、明治以降の近代化の流れで、西洋楽器に対抗できるパワーやスピードを求められるようになり、また養蚕業の衰退や価格の高騰などの問題もあり、絹糸からナイロンに以降している。近代化、合理化、経済などの影響で、楽器の音色が乏しくなることに、我々音楽家はどう対応するのか。チャッチョンの姿勢は、色々な意味で参考になる。

チャッチョンとチャチャポンと別れ、昼食後は、ずっと通訳で同行してくれた作曲家のクックともお別れ。いよいよ最終日。ホテルに戻り、小一時間の買い物の後、ZOOでジャンダヴィにお別れを言って後、明日のカウントダウンコンサートのリハーサル中のアナンを訪ねる。

チャオプラヤ川を渡り、2000年の歴史を持つ寺院には、セキュリティ体制が非常に厳しく、そこを次々に通されて、川の上に浮かぶ特設ステージと、寺院をライトアップする膨大な照明と、複数設置された巨大スクリーン。舞台上には、室内オーケストラ+タイや東南アジアの民族楽器+ドラム+キーボードなど、それに歌手。そして、数々のダンサーなど。どうやら、日本で言うところの紅白歌合戦。明日の本番に向けてのカメラリハーサル。照明も数々の色で寺院をライトアップして、音楽に同期して点灯する。とにかく、大規模でお祭り騒ぎ大好きなタイ人らしいカラフルな演出。午前中のチャッチョンと対照的。

アナンにもお礼と「また会おう」と挨拶。こうして、濃厚なバンコク滞在の最後の夜は終わっていきました。