野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

尺八も箏もタイの楽器です

シルパコーン大学の作曲の大学院生のためのレクチャー。シルパコーン大学で講師をしているジャン・ダビの招きで。フランス人のJDと前回会ったのは、5年前のスコットランドエディンバラ)だったが、4年前にシラパコーン大学の専任講師として招かれて、いきなりタイで暮らし始めたようだ。今では、タイ語も上手で、タクシーの運転手にタイ語で道を説明している。タイ人の彼女がいることも大きいのかもしれない。「でも、彼女が英語が上手だから、なかなかタイ語が上達しない」とJD。

大学院生たちが、どんなことをしているのか一人一人に尋ねてみると、「バンコクノイズ」というプロジェクトで、バンコクの町中のサウンドスケープを録音し作品を作っていたり、色々面白いことをしているようだが、シャイでうまくぱっと説明できない。短時間で自分のやっていることをプレゼンするのが苦手なようだ。

今日は、「日本の楽器のための作曲」という題材での講義で、まず鍵ハモのソロ演奏から。「日本の楽器」ということで、まず鍵盤ハーモニカの紹介から。続いて、北斎漫画四重奏の話。尺八、胡弓、(中国の)七弦琴、(インドネシアの)ガンバンという四重奏を、200年前に北斎が描いている。日本と中国とインドネシアの楽器が融合した江戸時代のワールド・ミュージック。尺八もガンバンも日本の楽器かもしれない。ジャワ・ガムランをこの四重奏でやろうとしたら、こんな音楽になったかもしれないという音楽が「南の北斎」。でも「南の北斎」をスペインで演奏しているうちにこんな音楽になったかもしれないという音楽がピアノ曲「アンダルシアにて」。異文化との出会いがもたらす変容について。ジャワの木琴は、日本に来て小型になった。小型になった木琴は、もはやインドネシアの楽器とは言えない。日本の楽器と呼ぶべきだろう。ジャワのルバブのインスピレーションから書いた「ポーコン」の3楽章を紹介し、そのまま薮さん作曲のガムラン作品「銀河鉄道の夜」を紹介。日本人のガムラン奏者による日本人作曲家の曲。楽器はジャワ・ガムランだが、音楽としてはジャパン・ガムランガムランインドネシア人だけのものでなく、日本のガムランもイギリスのガムランアメリカのガムランもあり、それぞれで違った展開をしている。だったら、箏だって、三味線だって、日本人だけのものじゃない。だから、タイの作曲の学生達に言った。箏も尺八も三味線も、日本人だけのものじゃない。どうぞ、タイ人の感性でタイの作曲家の皆さん、日本の楽器のために作曲して下さい。そうすれば、タイの楽器としての三味線、タイの楽器としての箏に出会える。それは、ぼくら日本人にとっても、嬉しいことだ。日本の文化に敬意を表してくれることは嬉しい。でも、だからと言って遠慮することはないんだ。タイ人として日本の楽器の新たな可能性を照らしてくれれば、いいのだ、と。

その後、質問コーナーで、動物との音楽の話もして、「ズーラシアの音楽」を見せたり、歌舞伎の話になったり、濃厚な時間を過ごした。アナンが「今日の授業どうだった?」と電話してきたので、「色々話したから、学生達を困惑させたと思うよ」と答えると、「学生達を困惑させることができれば、それは良い授業だ」、とアナンが言う。JDと夕食、5年ぶりとは思えない。つい昨日のことのようであり、5年間にあった出来事を話し合ったりした。来週、JDと授業もするし、コンサートもする。楽しみ。