野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ウーキルとの3曲目

本日は、また、入国管理局まで出かけ、バス停でも、バスの待ち時間が相当長く暇なので、バス停で働いてるお姉ちゃんと、ずっとお喋りして暇つぶしたり、結構満員になったバスで隣に座った女子高生と喋ったりして、近くて遠い入国管理局に行って、いろいろ、手続きして、ようやく、もうココには来なくて良くなりました。ああ、良かった。

さて、その後、帰りは、バスを2本乗り換えて、降りたことないバス停まで行って、ウーキルに迎えに来てもらい、ニティプラヤンの彼の家に行く。曲が2曲できたので、マランでのコンサートに向けて、3曲目を作ろうというのです。で、3曲目を作るべく、彼の手作り3弦ギターとセッションをしているうちに、また、知らない人が、家に入ってくる。色んな人が、家にぷらっとやってくるわけです。

ヤニさんは、環境問題をテーマに活動するアーティスト。彼女の到来とともに、リハーサルは中断し、環境問題に関する話の場に一変。ムリア原発の反対運動の先頭に立って動いたのが、スラマット・グンドノというアーティストだったそうだ。日本の振付家が、インドネシアとの共同制作作品の中間発表を2012年の3月に東京で見た。あの時、スラマット・グンドノのインタビュー映像から始めていたけれど、あのグンドノさんが、ムリア原発の反対運動を積極的にやった人だったとは、知らなかった。

彼女が言うには、インドネシアは木材を大量に輸出していて、熱帯雨林が、もの凄いスピードで消滅しているとのこと。1分間にサッカー場がなくなるペースで、消滅していて、そうして熱帯雨林の環境の中で、生活をしていた社会が、一つずつ生活の基盤を失っていく、と嘆く。世界の海の20%を持つインドネシアが、どうして魚や塩を輸入し、木材を輸出するのか、と問いかける。今やインドネシア人の人口の3分の1しか、稲づくりに従事していない。たった、3分の1なのです、と主張されて、日本に比べると随分高い数字だな、と思いました。さらには、インドネシアには、テンペや豆腐がいっぱいあるけれど、これらの原料になる大豆は、かなり多くをアメリカから輸入しているのだ、と言う。こんな農業の盛んな国で、しかも物価を考えても、アメリカから輸入は無理なんじゃないの、と思いたいけれど、彼女が言うには、アメリカから輸入していて、アメリカだから、遺伝子組み換え作物もある、と言う。

そんな話を色々続くうちに、ウーキルが裏庭に出て、バナナの木を鉈でバサっと切って、大量のバナナを持って来る。ぼくらは裏庭に出て、バナナを食べる。ウーキルは、少しずつ畑になりつつある裏庭に水をやる。そして、ヤニさんが「こういう活動を続けて学んだのは、ネガティブになってもうまくいかないこと。教条的になってもうまくいかないこと。大切なのは、生活を楽しんでポジティブに暮らしていくこと」と言う。彼女は、2週間後には、アムステルダムに行き、その後、アメリカなど、何カ国か転々として、ぼくがインドネシアにいる間には帰って来ないらしい。かなり、国際的なネットワークを作っているようだ。ぼくが、インドネシアの次にはタイに行くと言うと、「私、以前タイに住んでいたこともあるの。7月のその時期だったら、ひょっとすると、タイで会えるかも」と言って、帰って行った。

彼女が帰ると、ウーキルとの作曲が再開する。音を出しながら、探りながら、作品を作っていく。何もメモをとることもなく、全ては記憶に留められていく。この3曲を、来週マランのコンサートで発表する。