野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ミニマックス・ミュージック  

ジョグジャの芸大に、スボウォさんの授業「舞踊音楽の作曲」を見に行く。踊りを専攻している学生がダンスの音楽を作曲し、それを録音して、最後は、その音楽に合わせて踊るという授業。行くと、学生がまだ集まっていないので、学生が集まるまで学食でお茶をする。この時間を利用して、スボウォさんにインタビューをさせていただく。スレンドロ、ペロッグ、西洋音階、タイの音階などを混ぜ合わせた曲など、非常に実験的であるが、こんな違う音階をどうやって共存させることができるのか、お話を伺って、非常に面白かった。音階が違う楽器があったとしても、何か一つでも共通の部分があれば、それで十分だと言う。それがリズムであれ、音色であれ、一つでも共通部分があれば十分で、ましてや二つも共通部分があったら、なおのこと、とのこと。ガムランの伝統音楽に強い基礎を持ちつつ、図形楽譜を活用したチェロの作品もあるし、活動の初期には、西洋音楽の発想からも多くを学んだというスボウォさんの器の大きさは、音楽そのものからは、常に感じておりましたが、お話からも器の大きさを改めて思い知りました。

で、インタビューの後、授業の場所に戻る。学生達は、演奏の準備完了。で、ぼくがインタビューに使った録音機が、活躍する。ぼくは、録音係になる。学生達は、パーカッション、石、紙、声、ガムランの楽器などを活用して、4つのグループが作品を録音。舞踊学科の学生がこれだけ音楽ができるのは、インドネシアならでは。ダンスの学生は、ある程度、楽器ができて当然なのです。いつか、日本でもダンサーのための作曲ワークショップを開催してみても面白いかもしれない、と思いました。しかし、日本ではダンサーはこんなに音楽が流暢にはできないだろうけど、、、、。

その後、民族音楽学科のハリアントさんの部屋を訪ね、ハリアントさんから「クロンチョンの授業を見学する」と薦められ、クロンチョンの授業を見学。クロンチョンは、インドネシアの古いポップス。何気ないつもりで、見学していると、チェロに弦が3本しかない。コントラバスも3本。ウクレレも3本。全部、一本足りない。弦が切れているとかでなく、3本しかない楽器なのだ。聞いてみると、なんとクロンチョン用のチェロ、コントラバスウクレレマンドリンと、全部、通常の楽器と弦の数が違って、調弦の仕方も、全然違うのです。コントラバスがADGなのは、EADGの一番低い弦をなくしただけなので、まだ分かります。チェロのDGDは、もともとのCGDAの一番上の弦がなくなって、CGDとなって、そのうちに、一番下の弦が一音あがって、DGDとなったのでしょうか。ウクレレは、GBEで、最初のGが高いところも、ウクレレのGCEAという通常の調弦に似ています。多分、一番上がなくなって、GCE となって、真ん中の弦が半音下がったのでしょう。そして、ギターのEADGBEという6弦の調弦の最後の3つGBEとオクターブの上下を無視すれば同じなんだ、と説明してくれました。

これだけでも驚きだったのですが、先生が「私のクロンチョンの教え方は」と言って、説明してくれました。なんと、一曲やる度に、楽器をローテーションして、全員が歌も含めた全ての楽器を担当するというもの。ただし、この日の授業で使っていたのは、チェロ、マンドリンウクレレコントラバス、ギター、歌。全部、弦楽器で、チェロもコントラバスもピチカートなので、発音原理は一緒とは言え、全部の楽器をやらせるところが、インドネシアです。

夜は、メメットさんの家で、彼のバンド「Gangsadewa」のリハーサルを見学。16日にジャカルタでコンサートがあるので、準備中なのです。1曲目は、7拍子のプログレ風。メメットさんがソプラノサックス、ギター、ベース、これにドラムだったら、普通のバンド編成なのだが、これがインドネシアの様々な太鼓が4人。リズム隊が分厚い。2曲目は、一転して、インドネシアの様々な竹琴、鉄琴などで、ミニマルミュージック。アフリカ音楽や、バリ音楽に影響を受けたアメリカのミニマルミュージックは、西洋楽器でアフリカ風ビートを反復したりするわけですが、その音楽に影響を受けて、インドネシア人がミニマルミュージック風に、インドネシアの民族楽器でやっているわけです。もはや、これは何と形容して良いのやら。やはり、音色や倍音が断然ライヒよりも面白いし、演奏のノリも断然、面白いし、かと言って、民族音楽のようにも聞こえないのです。その後も、色んな曲の練習をたっぷり聞かせていただきました。