野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

メメットさんとハリアントさん

メメットさんのインタビューの文字起こしの続き。何とか最後まで書き起こせましたが、早口で聞き取れなかったところがあるので、そこは、あとでインドネシア人に質問することに。ハリヤントさんと、メメットさんの意見が、全く違う方向だったのには、驚きました。二人とも様々な活動をしておられますが、どちらもインドネシアの様々な民族楽器を混ぜ合わせての音楽を実践しておられます。二人の音楽性は違うものの、インドネシアの楽器を集めた音楽をする、というコンセプトは共通しているので、発想は似ているのかと思いましたが、大違いでした。

メメットさんは、音そのものに着眼し、純粋に良い音であることに特化します。様々な音があることで、色彩も豊かになり、違いが音楽の中で美を生み出すと言います。背景にどんな文化があるかは、重要じゃないと言います。一方、ハリアントさんは、違った文化の人々が、音楽で一つになれるところに喜びを感じる、と言います。つまり、メメットさんにとっては、オーケストレーションで、ハリアントさんにとっては、文化交流なのです。

また、メメットさんは、伝統音楽のコミュニケーションによる方法を内包する作曲であり、論理と感性のバランスが重要と言います。一方、ハリアントさんにとって、音楽は、物語であり、演奏家が即興できる余地を作ることが重要と言います。つまり、メメットさんにとっての作曲は、作品全体のテイストを形づくる責任者であり、ハリアントさんにとっての作曲は、人々が交流する場の提供者です。

さらに、インドネシア音楽の未来に対するコメントも、全く違いました。メメットさんは、インドネシアの若い作曲家が育っており、インドネシアの作曲の発展に希望を感じていましたし、ハリアントさんは、多くの伝統音楽が絶滅してしまう未来を危惧しておられました。

さて、夕方には、マングナン小学校で音楽を教え、創造的な音楽教育カリキュラムのための調査をしているダルーさんが訪ねてきました。ダルーさんは、小学校で子ども達とペットボトルやドアや身の回りのものを中心に、音楽をしています。もう授業でやるネタがなくなって、困った時に、鹿が川を渡ろうと、石の上を飛んでいく音、という物語設定をして、各自が一つ水の入ったビンを持って、鳴らしたら、すごく面白くいったそうです。これが、低学年や幼稚園で、とても楽しくできたそうです。小学校のプロジェクトは別で、彼の出身地の村に残る伝統舞踊をベースに、ガムランやドラムや色んな楽器が加わる創作舞踊劇を作ったそうです。作曲家というか、オーガナイザーというか、この辺は、作曲家のスタントさんの活動にインスピレーションを得て、初めてやった試みだそうです。

ダルーさんは、子ども達に原発事故後の日本の話をしてもらって、それをもとに、歌を作ったりすると、子どもたちにも良い経験になると思う、と言ってくれました。マングナン小学校にも行くことになりそうです。