野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

インドネシアの学校教育特集4〜ジョグジャカルタ第3養護学校にて

 インドネシアの学校教育特集も、本日が最終日。小学校での創造的な音楽教育のパイオニア池田邦太郎さん、斉藤明子さんも、本日で帰国。でも、帰国を前にして、3度目のワークショップ。今日は、障害児の通う学校に行きました。案内してくれたのは、ジョグジャ芸大の先生、Djohan Salimさん。マングナン小学校のダルー先生も、予定を変更して駆けつけてくれました。
 ジョハンさんは音楽心理学者で、インドネシア政府と学校教育のカリキュラム作成などもしているそうです。ジョハンさん達が作っているインドネシアの「学習指導要領」は、創造的な音楽活動をメインに据えているようです。「学校の音楽で大切なのは感性を養うことであって、テクニックを身につけることではないから、創造的な活動をメインに置くのは当然だ。」とジョハンさんは言います。でも、カリキュラムを作成する研究会では、教育大学の先生たちとなかなか意見が合わなくって、大変だそうです。
 ジョグジャカルタ第3養護学校の講堂で池田さんのワークショップ。身体障害、知的障害、聴覚障害などの子どもたちが30人ほど徐々に集まって来ました。講堂はよく響くので、個々の音があまりクリアに聞き取りにくく、大勢で自由に音を出すと、モアっと濁ってしまい、少人数ではっきり何かをやったり、全員で一斉に何かを鳴らしたり、硬質でくっきりした音を出すのに向いている感じです。そうした音環境では、ストロー笛よりも、竹や風船の方が音が通ると思ったのでしょう。池田さんは、すぐに竹や風船などに楽器を切り替えていきました。
 そうやって楽器を切り替えるにあたって、斉藤さんがアシスタントとして、背後で、大慌てで楽器をその場で作って準備します。それをダルー先生や現地の先生も手伝いで、真似て作るのです。こうやって、子どもたちのセッションの背後で、先生向けの楽器作りワークショップが行われていました。きっと、この学校でも、池田式の手作り楽器が、しばらく流行るでしょう。そして、そこから、どんな展開があるのか、楽しみです。
 一つ、印象に残ったこと。池田さんが、「インドネシアでも不登校の子どもっているのかな?」という質問をした時、ダルー先生が「学校は楽しいところだから、不登校はないけど、でも、学校によっては、宿題が多かったり勉強が難しかったりして、学校に行きたくない、と思うこともあるかもしれない。」との返事がきました。つまり、人間関係が難しくて、学校に行きたくない、という状況が、ダルー先生は全く想像すらできなかったのです。それくらいインドネシアでは、友達に声をかけたり、みんなと仲良くしたり、ということが、今のところ機能しているようなのです。
 学力も大切かもしれませんが、生きていることを喜びに感じたり、友達と喜びを共有できたりすることは、それよりも遥かに大切なのだと思います。そのことが、インドネシアの学校や家庭や社会の中で、成立しているのです。毎年4万人近い人が自殺している日本という国の未来や教育を考える上で、大いに参考にすべきヒントが、この国にいっぱいあると思います。