野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ガムラン結婚式とインドネシアのコンテンポラリーダンス

朝起きると、日本人の自閉症の行動療法の専門家の方と、テーブルをともにして、お話をすることに。音楽療法の学会で、質的研究の投稿が少なく量的研究の投稿ばかりだ、という話題があった、と伝えると、ご自身が翻訳された「一事例実験研究デザイン」という本を参考にすると良いと、おっしゃった。

本来は、まだジャカルタにいるはずだったのに、ジャカルタの手続きを一部、ジョグジャに振り替えたおかげで、予定よりも2日早く来ることができた。すると、今日は、才能のある若きガムラン奏者/作曲家のウェリー君と歌姫ワヒューさんの結婚式にご招待される。予定が変更になったことを、facebookに書いたら、結婚式に是非来てくれ、とご招待。2日早くこれて、結婚式に参加できるとは、光栄この上ない。ジョグジャカルタから郊外に出て、田園風景が続く田舎の自宅の前が会場。受付のところで、名前を書き、隣の銀の貯金箱みたいなのに、お祝いのお金を入れるようだ。何も準備していないので、お金を入れる封筒がなくて困ると、受付の人が封筒をとってきてくれた。これが、エアメールの封筒。海外から着いたばかりにちょうどいい。会場ではガムランの生演奏。20名強のメンバーは、若手の実力者が勢揃いした感じ。みんなウェリーとワヒューの友達だろう。ガムランの大御所の先生方は、もちろん招待されている。結婚式の間中、終始、演奏が続き、これが単に上手というだけでなく、心から喜びに溢れている演奏だった。野外に椅子を並べて、テントみたいな日よけがあるところ。司会の人はマイクで進行。途中で、食べ物と飲み物が回って来て、食べて飲んで、音楽を堪能して、新郎新婦と握手を交わし、写真をとって、帰る。せっかくなので、「ご結婚おめでとうございます」と日本語で伝え、「誠にめでとう候いける」と伝える。

夜は、芸大の舞踊学科主催で、舞踊科の講師陣の舞台作品を7作品上演するというイベントに招待されて見に行く。こちらも、ジャカルタでの手続きのため、見に行けないと思っていたのだが、幸運にも行ける。そしたら、1作品は、スボウォさんが音楽担当で、8名ほどの音楽家で演奏。これが、いきなり緊張感の高い強烈な音楽で、ダンスを理解し、シーンに見事に合わせつつ、独自の世界観を持ち、曲調は変わっていくのに、緊張感が途切れない。この作曲家の才能を痛感し、こんな天才とコラボレーションさせてもらえる機会がある自分は幸せものだと、感謝の気持ちでいっぱいです。2作品目は、プログラムを見ると、朝結婚式をしたウェリーが音楽担当。えっ、結婚したその日に本番?インドネシアだと、それもありなのか、と驚くが、音楽は録音だった。ウェリーの音楽は、ガムランの伝統に則っているものの、軽やかで爽やかで、通常の伝統音楽とは違った空気が流れる。スボウォさんとは、全然、別の才能。

この2作品目は、デュオのダンスで、二人がワヤン(影絵)の人形のような動きをするのですが、これが素晴らしく面白い動きで、圧巻でした。多くの作品は、振付が舞踊科の先生で、出演は学生とかだったりするのですが、この作品は先生が出演していて、さすがで、すごいステージとして、見事に成立してました。それから、6作品目に、2008年のインドネシアツアーでご一緒させていただいて以来、何度か共演させていただいているウッティさんの作品を始めて拝見したのですが、これが素晴らしく良かった。ご本人が出ていないのに、ご本人のダンスで出す独特のコミカルな世界観が見事に出ていました。音楽も、わざと楽器が足りない感じにしたり、へなちょこな感じを出していて、全体として、テイストが統一されていました。

ここの先生達が、優れたダンサーであることは分かっていたのですが、海外から情報が少しずつ入ってくるにつれて、振付とか演出という概念でダンス作品を作り、本気で外に発信する気になってきてますね、これは。そして、この人達が本気になると、あっと言う間に、世界のコンテンポラリーダンスのシーンを吹っ飛ばしちゃうに気がします。