野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

4人の賢者との会合

朝(pagi)、カラウィタン(=ジャワ・ガムラン音楽)の名手のスニョトさんが訪ねてくる。スニョトさんは、2013年6月にTembi Rumah Budayaでのコンサートで共演していただき、2016年に大阪で「釜ヶ崎オ!ペラ2」でも共演していただいたことがある。先週に、千住だじゃれ音楽研究会メンバーを連れてお宅訪問した際、ガムランのレッスンをしていただいたお礼をし、ギギーの淡路島の瓦の音楽についての本を進呈する。その後、ニョト先生とお喋りタイム。スニョト先生は、作曲家のスボウォさんと、芸術高校で同期だったとか、高校生の頃、スボウォさんの実家に行って、ガムランを演奏したことがある、などなど。

お昼(siang)には、作曲家のマイケル・アスモロを訪問。アスモロさんは、2003年にいずみホールでのコンサート「ガムランの現在形」でご一緒したことがある。その時は、野村誠作曲の「ペペロペロ」、アスモロさん作曲の「虹」、ヨハネス・スボウォ作曲「太陽」の3曲がガムラングループ「マルガサリ」により世界初演されたのでした。アスモロさんは、インドネシアでは珍しい西洋の前衛スタイルのシリアスな現代音楽を書く作曲家。アスモロさんの最近作曲したファゴット+ボナン8人の曲の譜面を見せてもらう。ボナンは、逆さまにして、中に水を入れて、その状態でトレモロ演奏をするという曲。それから、フルート、ヴァイオリン、チェロ、クラリネット、ピアノの5重奏の曲も見せてくれる。あとは、初めてやった映画音楽のアレンジを聞かせてくれる。こちらは、全然現代音楽ではなく、ルネッサンス音楽のような合唱。「お金のための仕事」と笑う。「ギギーが、マコトさんのスタイルでやっていきたい、と言うから、ぼくは、マコトの今だけを見るのではなく、彼の歴史を全部知った上で今やっていることを見なければいけない、とアドバイスしたんだ。それから、マコトはスポンサーを見つけるのも巧いから、音楽だけはなくって、そこも教わるようにと言ったんだ。」と嬉しそうに語る。アスモロ節は健在。5日はジョグジャの芸大キャンパスでベトナムの作曲家のセミナーがあるとのこと。

夕方(sore)には、インドネシアを代表するコンテンポラリーダンスのダンサー/振付家のMartinus Mirotoが訪ねて来る。ミロトとは、2000年に韓国のフェスティバルで出会い兄弟のように仲良く過ごしたが、それ以来10年以上合うことがなく、2011年にジョグジャで再会。2012年に日本でも再会し、2013年にジョグジャで彼の「テレコラボレーション」の創作過程を一緒に試行錯誤したり、2014年には、岩手で共同創作をした。晩ご飯を食べに出かける。ミロトは現在、ISI(芸大)で「ダンスとドラマツルギー」という新しい講義を始めているらしく、ドラマツルギーの観点から、我々の12月28日のコンサートについて、色々と論じてくれた。

1)マコトの演奏は、単なるエンターテインメントではない。常に何かを探し求めている感覚がある。だから、観客に疑問が投げかけられ、考えが触発される。だから印象に残る。単なるエンターテインメントは、その時に楽しいが後には何も残らない。

2)ドラマツルギーがあるかどうか。マコトは最初の曲では(手を使って)指揮をし、途中で鍵盤ハーモニカとピアノを経て、コンサートの最後は足(相撲の四股)で終わった。手から始まって、足で終わるという一連のストーリーがクリアにある。それがドラマツルギーだと思う。

3)知的障害の彼は、まさにベン・スハルト(ジャワの即興舞踊の達人)だった。彼は、自分の気持ちに素直に、踊りたい時は踊り、叩きたいときは叩く。そうでない時は、何もしない。妻も同意見だった。

4)佐久間のダンスは、いいエネルギーがある。彼の即興にドラマツルギーを導入した演出を加える可能性もある。ある曲では、右手だけのダンスをする、別の曲では、仮面をつけた舞踊をする。別の曲では、照明は真っ暗でロウソク一本の灯りで、ゆっくりの動き。また別の曲では、踊るエリアを限定して素早い動きをする、など。これを、それぞれの曲のキャラクターに合わせて、考えてみることも良い。

ベン・スハルトピナ・バウシュの両方にダンスを学んだミロトだけあって、即興と演出の両方を、遊びを作品としてどう見せるかについて、様々な問いを投げかけ続ける。非常に濃い会話ができた。そして、彼の今のテーマは、ドラマツルギーということで、終始一貫して、ドラマツルギーについて語ってくれた。

そして、夜(malam)には、作曲家のヨハネス・スボウォさんが訪ねてきた。スボウォさんとは、2003年のいずみホールのコンサートでご一緒して以来、2005年のジョグジャ、2006年の滋賀、2007年のオーストリアと3年連続で即興のコラボレーションをさせていただき、2011年には、ジョグジャで数多くのコラボレーションで共演。2012年には、ジョグジャでスボウォさんの新作を演奏。2013年には、インタビューもさせていただき、2015年には、マレーシアで共演、2016年には、ジョグジャでの「瓦の音楽」で共演。というように、10年以上に渡っての長い付き合いをさせていただいている作曲家。イタリアでやったSAATは、リハーサルなしの完全即興で、TABAKIは指揮者なしで譜面を書いた曲で3週間練習した、とのこと。どちらも素晴らしい。ジャワの哲学について、京都のガムラングループについて、カリマンタンの音楽について、和太鼓と舞踏について、などなど、語り合う。