野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

だじゃれ音楽の町にて

東京遠征なんで、妻がお弁当をつくってくれている。ありがたいものです。できるだけ外食しなくて良いように、との心遣いに感謝です。東京の方々が、よく鍋をしてくれるので、関西の美味しいポン酢を差し入れるか、と思い、ポン酢を買いに行く。「大阪の人は、ほんまポン酢にうるさいからなぁ。」と妻が言う。近所のスーパーにも、やたらにこだわりのポン酢が売っていて、値段は高いけど、明らかに美味しいのです。

荷物をよっこらしょ、と出発。小麦粉みたいな雪が吹雪いてきて、電車を乗り継いで、東京都に提出しなければいけないので、新幹線の領収証もちゃんと書いてもらう。京都駅は雪じゃない。でも、トンネルを抜けると、そこは雪国だった、というのは、本当で、山科、大津、とトンネルを抜ける度に、積雪量が多くなり、米原あたりに来ると、徐行運転とかになって、名古屋駅は予定よりも遅れて着くわけです。

そんな雪景色は気にせず、パソコンで「鍵ハモトリオ」のリハーサルの音源を聴きながら、譜面を出して、「鍵ハモトリオ」の研究。明日は、ピアノソロのコンサートをやるのですが、明日は全部、自分の曲を弾くので、譜面を研究する必要があんまりないわけです。だから、2週間後にやる14人の他人の曲をやるので、それを研究するわけです。他人の頭の中は、本当に分からないので、どうして曲がこうなって、ああなって、そうなるのか、生理的には全然わからないし、わからないから面白いのですが、それを自分の身体に落とし込むのには、こうした作業がいるわけです。

で、そうやって譜面の研究をしているうちに、雪景色なんて全くない静岡県を通っているうちに、ちょっと休憩の後、多くの返信しなきゃいけないメールの返信を次々に書いているうちに、都会の景色になってきた。と同時に、屋根の上に雪積もってる。関東の大雪って、本当だったんだ。

東京駅で乗り換え、上野駅で乗り換え、スカイツリーってあれか、と常磐線の車内から見て、北千住へ。三浦さんと長津くんと待ち合わせのはずが、もう一人見知らぬ若い女の子がいる。あれ、誰?と思ったら、芸大の学生で、映像をやる田島さん。卒業制作で映画を作ったらしく、「だじゃれ音楽祭」の助っ人として、突然、抜擢されたらしい。三浦さんのオフィスで、打ち合わせ。田島さんの建設的なご意見やプレゼン能力を、三浦さんがべた褒めして、「だじゃれ音楽番組」に田島さんのテイストも入ってきそう。遅れて、漫画家の宮田篤も合流。


長津くん達が撮影した映像(町の中で、だじゃれを言ってもらう)は、結構、色々な場所/シチュエーションで、言い訳も集まっており、面白い。なんだかんだで、我が「千住だじゃれ音楽祭」が浸透していっている感じもあり、いい感じなのです。宮田くんは、明日のイベントで「デスクジョッキー」という机の上で文字や絵を描くお仕事を担当されるので、その準備もしつつ。明日はピアノ弾くんだけど、今日は練習というよりは、こうやって「だじゃれ」の言い訳映像を眺めて語り合ったり、今後の段取りの話をする。そう、明日のコンサートでは、こうした千住の空気をそのまま音にのせて演奏したいものだ。

で、明日のコンサート、お客さん、どれくらい来るの?、と聞いてみたら、本当に分からないらしいのです。予約とか、全くなし。いきなり来る。無料。ふたを開けてみないと分からない。明日のコンサートの演目も、実は決めていないんです。配布のプログラムに曲目載せますか?と1週間前に確認されたので、載せません、とお断りしたのです。当日にそこに行って、お客さんの顔を見て、それで決めようと思うのです。だから、どんな曲をどれくらい、どんな順番で弾くかは、明日のお楽しみです。

そして、「だじゃれ勝ち抜き合戦」というのが、どんなものになるのか、明日になってみないと分かりません。場の雰囲気がどうなるのか、全く読めないので、そのことも含めて、楽しもうと思います。明日のイベントをやることで、3月16日の「千住だじゃれ音楽祭コンサート」の全貌が、見えてくるだろうと思います。

ああ、明日はだじゃれ音楽の町で、ピアノソロコンサートをするのかぁ。不思議な気分になってきました。ぼくの中では、既に千住に来たら、「だじゃれ音楽」をするスイッチが入ってしまうのです。青森や山口や京都でピアノソロをしている時とは、全然違うコンサートになりそうな予感。


鍵ハモトリオの15曲連載 第2回 池田真沙子 「もつれたリチェルカーレ」

この作品は、公募で集まった中の一曲です。譜面を見た時、ぼくはこう思ったのです。「この人は音大で作曲を学んだ人ではなくって、独特な感性で音楽をやっている人で、今回応募するために楽譜の書き方を学んで、見様見真似で譜面を書いたに違いない。」職業的な作曲家の持つ、妙に慣れた感じではなく、ある種の新鮮さや、ぎこちなさの魅力があると、思ったからです。後で、略歴を見て、京都市立芸大作曲科卒業であることを知った時、京都芸大の作曲コースは、なかなか自由に違いない、と思ったものです。曲は無調です。3人ともが両手を使うので、6声部の無調で、シンコペーションの効いたビートのはっきりした無調の音楽です。ソプラノ、アルト、バスの3人による音域の広い無調です。気迫いっぱいで、機械的に演奏するのだけど、鍵ハモの音色で、どことなくかわいい無調です。他の曲よりも、さらに短い1分20秒で終わってしまう盆栽のような小品です。アヴァンギャルド・ロックのギタリストが作曲したのではないか錯覚してしまいました。声部のもつれは、心地よい。

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