野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

18年目の今日という日

今日は、神戸の震災から18年。あれから、18年経ったのかぁ、と色々なことを思い出しつつ、神戸ではなく、大阪に出かけました。京阪電車の車内では、ずっと鍵ハモトリオの譜面をにらめっこです。こうやって移動中に譜読みをしていると、いろいろ発見があるのです。譜読みをしているうちに大阪で、環状線に乗り換えて、新今宮へ。

(自販機の缶ジュースが50円の)あいりん地区を歩き、「ホテルなかよし」という名前に色々空想しながら、「希望の家」に。釜ヶ崎芸術大学の第2回の講義をするのです。西成のおじさん達、「釜凹」というバンドのメンバーなど、地元の参加者も多いのですが、つき山いくよさんも、参加していました。講義が始まっても、神戸の地震のことなどを全く話題に上らず、数々の質問に答えて(絶対音感、ノイズとサウンド、などなど)、気がつくと、15時20分、80分の時間が流れていて、ああ、あんまり残り時間がないぞーー、と、大慌てで、音楽をする。前回つくった「あなた」という演歌風の歌を、2声にアレンジして歌ったり。中学校以来みたいに、合唱のパート練習をする大人たち。ハモっているように聞こえないところから、なんとかハモった気分になり、イントロや間奏も楽器でやって、楽しく講義終了。「鍵ハモトリオ」のチラシを配布してみると、このチラシをデザインした奥田さんの元同僚の方も参加していたことが発覚。

駅への帰り道、企画担当の植田のユーちゃんと語る。彼女は、もともと東京芸大の学生時代に出会っていて(あれは、かれこれ7年前だ)、取手アートプロジェクトで東京弁で野村企画を担当していたわけですが、栃木県の那須の避暑地のアートスペースに就職して、あいのてさんコンサートも企画してくれて、その仕事もやめて、今は大阪で晴れて関西弁で着物を着て自転車に乗ってココルームのスタッフしているのです。ユーちゃんと語り合って後、電車で京都へ。電車の車内でも「鍵ハモトリオ」の譜読みをしているうちに、だんだん眠くなって、気づくと熟睡。あ、出町柳だー。

出町柳の自転車置き場で、先週は田村武くん(精華大学の先生)に久しぶりにばったり会ったのだけど、今日は誰にも会わないなー、と思いながら、家に帰る。郵便ポストに、インドネシア大使館からレターが届いているので、大慌てでビザのオンライン申請の手続きの続きをやって、しかし、パソコンは融通がきかないので、いろいろ苦労して格闘しているうちに、妻が帰ってきて、晩ご飯。それから、近所の方々が集まって、ご近所バンド「かかのや」のリハーサルをしました。

リハーサルをしている途中で、八百屋の「フランク菜っぱ」の店主のムロイさんがやってきて、湧き水汲んできたの余っているし、あげるよー、と届けてくれる。嬉しいんで、ピアノでフランク・ザッパの「uncle meat」を弾くと、「おおー、帰り道uncle meat聴いていくわ!」と言って、野菜を売ってる野菜おじさんは、肉おじさんのメロディーを口ずさみながら帰って行く。ご近所づきあいです。

ギターだけマイクで拾って薄くPAしようか、などと相談していると、できるだけ関西電力さんのお世話にはなりたくない、というハードコアなご意見もあり、その心意気に乗ったと、あっと言う間に、全員が生音に決定。先日yugueでのライブで聴いた川手直人さんの昔の曲が良かったので、「かかのや」でもやってみたら、これがまた良い。前回やった「小さい秋みつけた」をやるには、季節はずれなので、「雪の降る町を」をアレンジしてみたり。

そんなこんなで、リハーサルが終わると、何となく、他の3人はお酒で、ぼくはお茶や水で、酔っぱらいながら語り合う。小さな音楽のネットワークを資本主義の魔の手に回収されずに、地道につないでいく話だけでなく、お灸から、アトピーから、健康関連の話も盛り込まれつつ、古本屋でCDが売れる話とかしているうちに、1月17日が1月18日になっていき、また来週、とリハーサルは解散していきました。明日から東京遠征だ、荷作りするよーー。

鍵ハモトリオの15曲連載 第1回 アンドリュー・メルヴィン 「トリオ」

ケンブリッジ大学でアカデミックな作曲を学び、ギルドフォード音楽院大学院で即興的な音楽にも触れ、ブルネル大学で即興と作曲の関係についての博士論文により博士号を取得したアンドリューの作品。そして、博士論文の中で、「トリオ」についての考察があり、「トリオ」の録音まで博士論文につけたそうだ。アンドリューは、かつて「キラーフィッシュ」という漫画を描いたりしていて、イギリス人らしいユーモアのセンスに溢れているのだが、この曲もそうしたアンドリューの本領を発揮していて、非常に知的でユーモラスで、笑えるのに美しい。しかも、ピッチの不確定な要素のある作品で、演奏する度に違った響きがする音楽なのに、毎回、豊かな響きを生み出す仕掛けが上手になされている。息を使って鍵盤を演奏する鍵盤ハーモニカの特性を活かしているのに、メロディーなど一切なく、終始、音響を楽しむ。そして、途中からは、声も使って、ちょっとダジャレ的な言葉遊びも登場し、さらには、身の回りの音を楽しむ「あいのてさん」的な部分も盛り込んである。野村誠の委嘱で書くと、ちゃんと野村誠を意識したアンドリューの音楽になっているところが、さすがだ。

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