野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

汚れた靴下の唐揚げ

 映画「Opera Jawa」について、スーチェンに感想を聞いてみたが、評価は低かった。やはり、西洋人向けの輸出作品としてのジャワの世界であって、インドネシア人の心を打つ作品ではないのだろう。スパンガという作曲家も、ジャワ・ガムランの伝統をうまく西洋に輸出する方法を得た作曲家と見えるようで、彼女の心にはあまり響かないようだった。
 インドネシアの芸術家は、インドネシア人に評価される作品を作ってもお金は儲からないが、西洋人に評価される作品を作ればお金は儲かる。これを、単なる2極で考えるのは、シンプルすぎるけど、しかし、この狭間で、どう活動していくべきか、は難しい問題だ。ジョグジャなどは、インドネシア人と外国人が混在している空気があるので、その間で自分のポジションを見つけていきやすいだろうが、スラバヤでは、難しそうだ。スーチェンなども、スラバヤで行われたピアノ作品のコンクールに作品を提出したら拒絶されて、シンガポールの作曲賞に同じ作品を応募したら、賞を受賞する。スラマットには、ヨーロッパから委嘱が来るのに、スラバヤの芸術祭からは、声がかからない。
 スラバヤから電車に乗って、Mojokertoという町に行く。近くに遺跡があるらしく、少し息抜きにと思って出かける。この町のことは、「地球の歩き方」に乗っておらず、唯一、「トロウラン」の遺跡について1ページ割かれているだけだった。Slametの文章を読んでいるが、フライドチキンについて例にあげて、本質のないことを嘆いていたようだ。ぼくが理解する限り、「近頃の若い人は、鳥の味がどうであろうと、ソースと衣さえ美味しければ、それで満足しているようだ。鳥の代わりに、汚れた靴下でも、気にせず美味しく食べるだろう」と書いてある。この人は、こういうドギツイ表現で敵をいっぱい作りながら、しかし、インドネシアの未来のために、発言し続けるのだと思う。