野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

Slamet A Sjukur

 作曲家のSlamet A Sjukurを訪ねる。70代半ばの彼は、創作の意欲は衰えることもなく、次々に新作を発表しているよう。「This is my new baby.」と言って彼が見せてくれたのは、「GAME Land No.3」というトランペット×3、ホルン、トロンボーン、チューバの6重奏。「Game Land」というタイトルは、「Gamelan」から来ているようで、駄洒落ではないか!曲は、バリガムラン風の16ビートを、ステージ上と客席背後の3ケ所に配置されたトランペットが、ホケットになったリズムを演奏するところから始まる。なかなか、演奏が難しそう。ドイツで初演されるそうで、彼の作品の多くはインドネシアで上演されないので、新作のリハーサルにすら立ち合えず、本番にも立ち合えない、と残念そうに語る。
 あと、彼が最近インドネシア語で書いた文章をもらった。彼の考えていることを知る良い機会だし、インドネシア語の勉強にもなるので。
 彼は、冗談を言い続けないと気がすまない。「昨年、彼女と結婚しました。」と妻を紹介すると、「で、君はぼくといつ結婚するんだい?来年?」と聞いてくる。お茶目なおじさんだ。
 夜は、スラバヤアートフェスティバルを見に行った。今日は、ダンスの公演があるとのこと。一つ目の野外でのダンス作品は、ジョグジャカルタから招聘されたもので、この作品は面白く見た。ところが、その後、ホールで上演されたスラバヤの2作品は、本当に退屈で大して踊らない上に、演出効果が失敗しているものばかりで、酷かったのだけど、それに対して、Slametの嫌味の言いっぷりがすごく、例えば、「あまりにもオリジナルで、心に響く作品だから、ぼくは泣きそうだ」と言ったりする。裏の意味としては、オリジナリティがなく、心に全然響かない、ということを言っているわけだ。最後のジャカルタから招聘された作品も、つまらなかった。つまらない3作品を見る限り、無意味にダンサーのどこかが蛍光で光ったりするのが、こちらのコンテンポラリーのトレンドらしい。また、無意味に、テレビモニターをステージ上に置いたり、膜がかかって、その背後で踊ったりするのも、どうもトレンドらしい。どうも、インドネシアのコンテンポラリーの世界の中だけで、これがカッコいい、ということになっていて、でも、それは、非常に表面的な仕掛けでしかない。それに対して、Slametは、「彼らがあまりにも最先端すぎるので、ぼくは時代遅れだなぁと感じるよ。」と嫌味を言う。もちろん、裏の意味としては、逆なのだけど、、、。