野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

あいちトリエンナーレ「投げっぱなし」

あいちトリエンナーレが、始まります。本日は、関係者向け内覧会とレセプションなど。

会場は、数カ所ありますが、まず、名古屋市美術館の展示を見に行きました。島袋道浩は、愛知県の小さな島に滞在し、漁村の中に彼が見出した美術を展示していて、これが非常に良かった。

オープニングレセプションで、10階まで吹き抜けのアトリウムで、遠田誠+野村誠でパフォーマンスをしました。そもそも、こういう音が拡散してしまう場所での演奏には、ぼくは通常難色を示すのでして、昨年の福岡トリエンナーレのオープニングでも、アトリウムでピアノの演奏、と言われたのを、あれだけの広い空間では難しいけど、吹奏楽団とかならばやれるかも、と言って、まず、吹奏楽になった上で、しかし、展示会場に近い彫刻ラウンジでやりたいと言って、最終的に、彫刻ラウンジとアトリウムの両方でやりました。

しかし、今回は、遠田誠と野村誠のデュオをやって欲しい、という依頼でしたので、通常ならば、トランペット10人とか、もっと、音の通る楽器のアンサンブルなどで、パフォーマンスを考えるでしょうが、遠田誠とやれることを優先し、敢えて引き受けました。

さて、即興でのパフォーマンスでしたが、600人と聞いていたレセプションに1300人詰めかけ、さらに、乾杯直後で、5%の人しかパフォーマンスを見ていないで、雑談しているという想像以上の困難な環境で行うことになりました。1200人分の喋り声が楽器の微細な音を全てマスキングしてしまいます。ぼくは、鍵盤ハーモニカの音を下から上に飛ばします。音を投げます。すると、遥か上空で音が響くのですが、その音もほとんどマスキングされてしまいます。これでは、音が届かないので、一人一人の観客に聞かせに行くことにしました。途中で、エスカレーターで遠田+野村の絡みができたのは、とても良かったです。パフォーマンスの終わり頃に、遠田誠が、「トリエンナーレのトリとかけまして」とマイクで喋っているので、思わず「エンととく」と言ってしまいました。何の考えがあったわけでは、言ってしまいました。すると、遠田が「そのこころは?」と言って、お客さんに問いかけるのです。その時、これでは、「投げっぱなし」だ、と思ったのです。そして、「その心は、投げっぱなし」とシャウトを始めました。天井に音を投げても、その響きに耳を傾ける人がいなければ、「投げっぱなし」。パフォーマンスをしても、見る人/聴く人がいなければ、投げっぱなし。方々から寄せ集められたアーティストが次々に発表しても、それを批評する人がいなければ、投げっぱなし。それを、愛知の地に定着させていく活動がなければ、投げっぱなし

「あいちトリエンナーレ」は開幕します。ぼくらアーティストは、投げっぱなして、そして、愛知を去って行きます。愛知には何が残るのでしょうか?投げっぱなしなのか、受けてから何かが始まるのか?

あいちトリエンナーレ2010 が開幕し、ぼくらは、「投げっぱなし」とシャウトして、パフォーマンスを終えました。