野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

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今朝の「四股1000」では、2016年のさいたまトリエンナーレでの一ノ矢さん(元力士/高砂部屋マネージャー)と野村誠、樅山智子(作曲家)の対談のテープ起こし原稿を読んでみた。3年半前の対談も、改めて聞くと発見も多い。映画監督の山城さんが朗読してくれた視覚障害者の写真表現と著作権に関する文章も興味深く、ユジェン・バフチャルという全盲の写真家の写真を見て衝撃を受ける。

 

愛知大学の門限ズ連続ワークショップ。本日は、えんちゃん(遠田誠)のダンスワークショップ。各自が自宅での遠隔ストレッチ。大学生たちが自分の部屋でストレッチしている。先日のだじゃ研(だじゃれ音楽研究会)のように、リアルの世界で何度も会った人とリモートで会う場合は、この人はこんな部屋で暮らしているのかと時に意外だったり合点がいったりする。しかし、リアルの世界で一度も会ったことがない学生たちと、いきなりそのプライベート空間である部屋をセットで出会っていくのは、かなり不思議な体験。通常は、かなり親しい人にしか、プライベート空間を見せない。

 

遠田誠は、さらに、自宅にある自分のお気に入りの物を紹介するように求めた。学生たち+部屋+お気に入り、という3点セットで、16名と出会う。ぬいぐるみだったり、CDだったり、新体操のボールだったり、ヴァイオリンだったりする。これらを使って、画面にフレームインしたり、フレームアウトしたりする。ZOOMでのワークショップだから体験できる。頭の上に物をのせてみたり、画面に入りきるような形に体をコンパクトにしてみたり。グループごとに分かれての創作も、リモートだから、ワンクッションある。ダンスに慣れない者同士が、他人の身体と触れ合って、ドキっとしたり、ムズムズしたり、躊躇ったり嫌悪感を抱いたり、ということはないし、汗臭さとか、息づかいとかがダイレクトに感じられたりもしない。ちょっと距離がある。こうした距離があるところで出会って遠隔でダンスしてから、徐々にリアルで知り合っていく。そんな出会いの中で、学生たちが徐々に親しくなっていくのを目撃している。どうなっていくのだろう?興味深い。今のところ、いい雰囲気で楽しそうに創作が続いているので、これがリアルでどんな風に展開していくのか、気になる。

 

今日は、遠田誠の授業の見学だったのだが、3時間強にわたる授業を見学しただけで、結構、疲れて、その後、1時間ほど昼寝をしてしまう。

 

夜は、鈴木潤さんと里村真理さんとポスト「音楽の根っこ」を語り合うリモート飲み会。「音楽の根っこ オーケストラと考えたワークショップハンドブック」という本を、潤さんと書いた。里村さんには、かなり色々助言をもらったし、方向性を考える上で貴重な意見をもらったのだが、里村さんがさらに潤さんと野村に、根源的な質問を投げかけてきた。ハンドブックという体裁の中、随分、根源的/哲学的なことを書いた。では、ハンドブックという形では表現できなかった根源的/哲学的なことで、まだ言えていないことは何なのか?オーケストラ、ワークショップという二つのキーワードの縛りを外した上で、「音楽の根っこ」に書かなかったけれども、実は「音楽の根っこ」になることは何なのか?そんな話をしていると、潤さんが江州音頭のバンドをしていたり、音頭の朝練習をする会をしていたことや、音の砂場や、レゲエや、様々なことが、別々のことではなく繋がっている、という当たり前のことが、言語化されていく。

 

新しいことが始まっていきそうな気配がしている。どんな風に始まっていくのかは、まだ全然見えていないのだけど、でも、2020年は終わりの年であり、始まりの年であるのだろう。何が終わっていって、何が始まっていくのか、まだわからない。始まっていくことには、まだ名前がついていない。その名前がついていない何かを捕まえようとしている人たちに、ぼくは興味がある。