野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

手塚夏子さんと

顔と顔カフェ、遠方からの方々も含めて、たくさんのご参加ありがとうございました。

ダンサーの手塚さんとのトークと、共演。

音というのは、離れていっても届くし、360度どの方向でも聞こえてくるのですが、視覚というのは、自分の視野の中のものしか見えない。そして、手塚さんは、部屋の端にあるアップライトピアノを弾くぼくの視野のはるか外、お客さんをはさんだ遥か向こうで踊り始めますが、ぼくは見ることをやめようと思いました。視覚を超えてダンスから感じる気配だけを頼りに演奏する。だから、実際に手塚さんの踊りが視覚的にどうだったのかは、見ていませんし、お客さんにどう見えていたかは、分かりません。

「顔と顔カフェ」という名のイベントだったのに、ぼくは、顔と顔を向き合わせず、視線を合わせずに演奏した。これは、多分、1992年ごろに舞踏家の森出(もりいづる)君と大阪でやった即興以来のこと。そのことは、それ以来ずっと忘れていたのですが、演奏しながら、その時のこともちょっと思い出された。森くんとの即興では、敢えてお互いを無視して即興をやり続けるというコンセプトで、終わった瞬間に、森くんが「やっぱりこれは、無視されすぎな気がする」と言ったのが印象的だった。今日のは、それとは違って、無視するのではなく、見ないけど感じようとする試み。そのことが、今日の特別なことだった。でも、ダンス見たかったなぁ。