野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

桃太郎も大詰め

中川真さん主宰のジャワ・ガムランのグループ「マルガサリ」と2001年から5年かけて作ってきた「桃太郎」。昨年からは上演のためのアレンジをしています。息の長い作業です。来年はインドネシア公演をし、その後ヨーロッパツアーを計画しています。10年がかりのプロジェクトです。

8月21,22日に大阪で本番をするわけで、今日、明日と二日連続で、大詰めの稽古です。今日は、冒頭からやってもらい、細かく練り上げていく作業をしました。

昨年の全幕上演も好評だったのですが、今年は数段レベルアップしています。レベルアップしてきたので、いろいろ細かいことも、言いたくなり始めるわけです。

ようやくここまで来たんだなぁ、と思いました。「桃太郎」の構想を中川真さんから聞いたのは、1996年のインドネシアでのことです。そして、1998年に新しい稽古場「スペース天」を大阪の豊能町にできたとき、誰からも頼まれていないのに、ぼくは林加奈と二人で10日間「スペース天」に寝泊りし、一日中ガムランの楽器を触り続けました。いずれ本格的にここでガムランに取り組むだろうという決意の表明だったように思います。この時期に、ガムラングループ「マルガサリ」が結成されたのですが、当時の演奏は、やる気のある活気のある音だったことを思い出します。

2000年、初めてマルガサリと仕事をします。それが「せみ」です。この時は、マルガサリのメンバーと相互作用の中で曲を作ることを模索するのですが、当時は、伝統音楽ばかりを演奏していたマルガサリは、ぼくとの共同作業にも戸惑い、さらにオランダ人の現代曲には苦しみ、あまり深くコラボレートすることは難しかったので、「せみ」は基本的には、全て野村が作曲し、口伝で伝える曲になりました。

そして、2001年、中川真さんが「桃太郎」のために、ぼくに京都での大学の先生の仕事を紹介してくれました。ぼくは、「桃太郎」をするために、大学の教員になりました。そして、ガムランで何が可能か、最初の一歩として、作品づくりを始めました。それまでジャワの伝統音楽ばかりを演奏していた楽団員たちは当惑します。「桃太郎」に積極的な人、消極的な人、温度差が生じます。楽器をやるつもりで来たのに、なぜか踊りの練習をしていたりする。2002年には、真さんの提案で、ほとんど楽器を使わずに、声と身体だけで作品を作っていきます。こうなると、ますます楽団員は当惑します。ガムランの楽器を触らずに、動いたり声を発することが、ガムランなのかと。

しかし、それはガムランなのだと、ぼくは思います。金属打楽器の器楽オーケストラがガムランなのではありません。ガムランは、歌であり、踊りであり、複数の人々が交じり合う音楽であり、生きている伝統だから、コンテンポラリーでもあるのです。

2003年、ぼくはダンスすることが楽器演奏であり、演じることが音楽で、演奏することが踊りになる曲「ペペロペロ」を作ることにしました。そして、この曲の作曲過程では、マルガサリのメンバー一人ひとりの些細な提案を、とにかく受け容れて作品を作りました。野村誠作曲作品としてコンサートで演奏され、CD化されることも決まっていたので、自分で作品を構築していきたい欲求も強くありました。しかし、マルガサリが自発的に作品作りに関わること、音楽、舞踊、演劇、を分けて考えないこと、これをクリアしないと、桃太郎第3場は作れないと思ったのです。「ペペロペロ」が転機になったのか、マルガサリは桃太郎第3場で、楽団というより劇団のように変わっていきました。

そして、2004年、エイブルアート・オンステージにも参加し、知的障害者ガムランでの即興を続けて、マルガサリは苦手だった即興演奏にも取り組みます。15〜20人が、一切の決め事なしに即興演奏をする、というのは、普通に考えれば無謀なことです。この無謀なことに、愚直に取り組み、何度やってもうまくいかない試行錯誤の連続を繰り返す。少し考えれば思いつく、工夫や仕組みのある即興にはせず、とにかく失敗すると思われることを繰り返す。だから、桃太郎の第4場は、もの凄いエネルギーの即興で展開されます。これに本気で取り組み続けるマルガサリは、素晴らしい。この愚直なやり方から生まれてきた第4場は、マルガサリの財産です。

そんな歴史を経て、今日の稽古場で、かつての課題を克服して、現在ようやく(かなり)フラットな関係で意見を言い合いながら、作品を練り上げ、演奏し、踊り、演じ、歌い、・・・ということを、当たり前のようにやっている人々を見て、不思議な気持ちになりました。楽譜は一切ない膨大な数のオリジナル曲を、当たり前のように演奏し、ぼくが、そこをこんな風に変えた方がいい、と言ったら、各自で勝手にアレンジし、メンバー間で相談して演奏してくれるのです。ようやく、ここまで来たのだなぁ、ここまでは長い道のりだったなぁ、と思っていました。

ここまで来たのだから、ぼくは、もっともっとマルガサリに要求していきたいと思います。もっともっと厳しく言っていきたいと思います。

公演の詳細は、以下に詳しくあります。
http://margasari.com/momo07/momo07-index.html


桃太郎に関する前回の日記
http://d.hatena.ne.jp/makotonomura/20070714