野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

桃太郎

桃太郎の公演、一日目が終わりました。

音楽を中心にすえた舞台に関する探求を、「ホエールトーン・オペラ」、「演劇交響曲第一番 十年音泉」、ガムラン楽舞劇「桃太郎」で行ってきました。ここで一貫しているのは、

音楽は演劇であり、演劇は音楽である
音楽はダンスであり、ダンスは音楽である

ということです。1999年に考案した「しょうぎ作曲」を実践するうちに、音楽の中に必然的に演劇的、ダンス的な要素が現われてきました。音楽と演劇とダンスが不可分であると実感するわけです。

そういう実感を持った状態で、2001年に京都女子大の児童学科の講師になります。幼児と音楽を始めると、幼児の生活の中で、音楽、演劇、ダンスというように分化されていなくて、それは広く「遊び」と呼ばれます。英語で言えば、playで、これは演奏するという意味でもあり、劇という意味でもあります。

この幼児の遊びの中で演劇と音楽の境界が曖昧になっていることに刺激を受けて、2001年以降のぼくは「桃太郎」に取り組むわけです。

楽家が発想する音楽劇です。

それから、もう一つ。矛盾した表現ですが、演劇を共同作曲することができるという信念に基づいて作られたものでもあります。

今日の公演を通しても、そのことが少しずつ実現しているのを感じました。

公演は、休憩の前は、緻密に作曲された音楽であり、劇ですが、休憩後の第2部は、徹底した即興です。休憩の前後で、あまりにも違う世界に驚かれた方も多かったと思います。

それにしても、中川真さんは、困難を選択していく人です。指揮者がいれば簡単に成立できるアンサンブルで、断固として指揮者をおかない。演出家を一人おけば、作品のクオリティは短時間で向上するが、目先のことにとらわれずに、断固として演出家を設定しない。楽譜を使ってアレンジすれば、短時間で効率よく作品を作ることができるが、一切楽譜は使わない。芝居が得意な人、ダンスが得意な人ではなく、ガムラングループのメンバーが演じ、踊っては、当初は素人くさくて、お金をとって見せられるかというレベルでしたが、それでも辛抱強く続けて、ここまで持ってくる。15人もの大人数で指揮者も譜面も使わずに完全即興をすれば、容易に混沌としてしまうが、それでも、人数を限定したり、何らかのルールで制御せずに、15人で即興をして成立するまで試行錯誤をやり続けていく。

ちょっと考えれば、うまくいかないだろう、と考え、工夫するのですが、工夫せずに、できるまでやり続けるのです。これは、古い例ですが、三振しても三振しても、野次られ続けても、信念を曲げずに、一本足打法という打ち方にこだわり、最終的に完成させてホームラン王になった王貞治というバッターのようです。マルガサリは、ひょっとすると、一本足打法を完成させてホームラン王になってしまうようなところに、近づいているのかもしれません。

それと同時に、(林加奈ちゃんとも話したのですが)マルガサリに足りないものは、基礎力です。単純に大きい声を出す。体を動かす。楽器を鳴らす。こうしたパフォーマーとしての基礎力が、アマチュアのレベルから脱しきれない人がまだまだ多いのです。各自の表現の工夫は、いろいろとやっていて、かなり頑張っています。しかし、最後の一歩、舞台上でのパフォーマーとしての存在としては、佐久間新や林加奈といった筋金入りのパフォーマーに、基礎力で大きく差をつけられています。

しかし、ぼくは知っています。10年前の佐久間新や林加奈が、パフォーマーとしての基礎力がないために、気持ちはあっても表現として成立できていない時期のことを。そして、自分の力量では手に負えないかもしれない舞台に、佐久間くんも加奈ちゃんも果敢に挑み続けた結果、今があるということも。

マルガサリのメンバーの中には、10年前の佐久間くんや加奈ちゃんのような逸材はいっぱいいます。ひょっとしたら、彼らは佐久間くんや加奈ちゃんのように大化けするかもしれません。その大化けするためにも、これからますます基礎を固めていって欲しいこと。そして、明日の舞台でも、力量の差にひるまず、
佐久間新や林加奈をぶっとばすパフォーマンスをして欲しい、と思います。そして、
野村誠を吹き飛ばして欲しい

野村誠が入っているから作品が引き締まったとは言わせずに、野村誠なんかは要らない、とアンケートに書かれるようなマルガサリであって欲しい。それが、明日の目標です。明日は、さらに欲張って、そこを目指しましょうよ。

そう言えば、美術家の高嶺格くんが見に来てくれていましたが、何と中川真さんからガムランの作曲を本気で頼まれているらしいのです。そして、高嶺くんと一緒に作品が作れるようなパフォーマー集団に、マルガサリは成長しつつあるし、さらにマルガサリは次なる一歩を踏み出すことでしょう。