野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

Why not?

現代音楽の楽譜出版社で野村誠の楽譜をまとめて出版しているマザーアースで、今日は作曲家の松平頼暁さんのレクチャーがあった。ぼくが10代の頃、松平さんの「20.5世紀の音楽」という本を読んで、現代音楽の大まかな流れがどんな風なのか、色んな考え方を文字でいっぱい勉強させてもらった。自分のための作品創作も大切だけど、ああやって、現代音楽に興味を持つ人をぐんと増やすような仕事をした松平さんがいたから、今ぼくらがこうやっている。そういうことって、大切だなぁ。今、マザーアースがやっているレクチャーシリーズも、なんだかすごく大切なことのような気がする。このレクチャーの内容をきちんとドキュメントする仕事、必要な気がするなぁ。


会場には、昨年に松平さんの作品個展を企画した作曲家の川島素晴さんや、その時に松平作品を演奏したソプラノの太田さんがいたり、作曲家の鶴見幸代さんはビデオ操作係でいるし、ぶらあぼ編集室の川合彦二郎さんや、音楽評論家の三橋圭介さん他、数名の作曲家と数名の音楽愛好家がいた。演奏家という職種の人がもっといてもいいのに、まずは、作曲家が集まるんだなぁ。

トランプと楽器を持参ということだったらしいのだが、トランプを持って来たものの楽器を忘れてしまった。ところが、かばんの中に池田邦太郎さん手製のスライドホイッスルが入っていたので、今日はこれで演奏に参加することにしよう。

Why not?というのは、トランプのカードをめくりながら演奏する一人または複数のパフォーマーのための作品で、スペード、ダイヤ、ハート、クラブに対応する4種類の異なる演奏のスタイルを演奏者自身が事前に決め、カードをめくって、出た記号の演奏を出た数字の長さだけ演奏する、ということを52枚全部やり続けるというもの。

実は、ぼくは中学生〜高校生の頃、作曲にはトランプを使っていた。トランプをめくって、何が出たらどんな風にするという規則さえ決めてしまえば、後は、めくって、それを紙に書き取っていけば曲ができる。最近は、トランプを使うことは全然なくなってしまったが、「ごんべえさん」という尺八と箏が入った曲を書いた時、箏というのは絃が13本あるので、ちょうどトランプでできるなあ、と思って、トランプで作った。そういう意味で、トランプは、ぼくにとって作曲に欠かせない懐かしいもの。

どうして、ぼくがトランプが好きになったのか。小学生の時に見ていた仮面ライダーシリーズで出てきたトランプを投げるショッカーの大ファンだったこと、のような気がする。思い出すと下らない理由だ。

小学校の時に、作曲しようと思っているときに、遊びに来た友人に、「日本特急旅行ゲーム」というチープなおもちゃのルーレットを回してもらって、その数字を書き出していってたこともあった。

松平さんのレクチャーは、非常に誠実に自分の作品の背景にある考え方や、そういったアイディアに辿り着いた経緯や、受けた影響などを語っていて、すがすがしいものだった。昔は、楽譜通りに演奏されることは、まずなかったが、最近の若い人は演奏の技術があがっているから、今では楽譜通りに演奏されるようになった、とのこと。最近の若い人は作曲の技術があるから、若い人の作品を聞くのは楽しい、そうだ。

松平さんの作品を聴いて、実演にも参加してみて、松平ワールドの誠実さをすごく楽しみました。