野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

仕事なんだよ!

倍音S尾引浩志さんの家で、NHKの新番組「あいのて」の打ち合わせ。尾引さんの家は、武蔵小金井駅だ。電車に乗りながらうとうとしていたら、東小金井駅で目が覚めた。次の駅だなと思ったら、目の前で片岡祐介さんが電車を降りようとしてた。「片岡さん!武蔵小金井駅だよ。」というのが、片岡さんとの挨拶。片岡さんは、大磯からここに向かう途中、山手線を逆向きの電車に乗るなど、数回電車を乗り間違えて、最後の最後でまた乗り間違えそうになったらしい。それでも、ちょうど時間通り、ぼくと同じ電車に乗っているとは、どういう時間の見積もりをして家を出てきたのだろう?

さて、尾引邸に着いた。衣装担当の市川栄治さん、ディレクターの高橋浩一郎さんも到着。3人の衣装サイズを測る。服を重ね着しているから、脱ぎましょうかと聞くと、だいたい分かりますから、と重ね着の上から測定。採寸した後も、市川さんもかなりのんびりぼくらの雑談に付き合ってくれた。ぼくは、昨日までのえずこホールの話で興奮しているので、そんな話をしているうちに、じゃあ、今年の終わりくらいには、音楽劇のメンバーたちで「あいのてオーケストラ」結成して、えずこホールで番組のロケしようよ、と勝手に妄想が膨らんで盛り上がる。これは、なんとなく実現しちゃいそうな予感。

荒井良二さんのイメージを市川さんはどんな風に衣装にするのだろう?多分、フェルトかな?尾引さんの家でのんびり雑談したり、実際に音を出すところも見てもらったので、少し市川さんにもイメージが具体化したと思うし、また一歩前進。

番組のエンディング曲は、せっかくだから片岡、尾引、野村の3人で演奏したいね、ということで合意。しかも、エンディング曲は、ピアノ+鍵ハモ、マリンバ+パーカッション、ホーメイ口琴+イギル、という3人の得意楽器でやり、3人で曲も作ろう、となった。オープニングのアニメにつける音は音効さんがつける予定だったが、尾引さんが、せっかくだから俺たちでやりたい、と主張。その方が、番組全体が一本に貫かれるし、そうすべきだね、と変更することに。

番組の第1回は、当初「フライパンミュージック」にするつもりだったけど、尾引さんちのリビングの机を叩いているうちに、第1回は、もっともシンプルな「テーブルミュージック」に急遽変更。とにかく、できるだけ面白さをシンプルにクリアに示したい。みんなで机を叩くと机の上のコーヒーカップが鳴り響く。こりゃあいい。ここからエスカレートして、机の上に色んなものを置いてみた。上に置くもので響きが変わるのが面白い。これはスネアドラムだね。そんなアイディアから、テーブルミュージックはテーブルマーチになった。リズムも音色も両方とも探求すると曲の面白さが逆に不明確になるから、リズムは行進曲として、机の上に置くものを変えるだけでどうやって音楽を作るか、そこにフォーカスをあてよう。

そんな風に雑談から自然にリハーサルになり、打ち合わせになり、雑談に戻る。こんな打ち合わせが続いているうちに、いつの間にか「テーブルマーチ」の曲が完成しちゃった。

市川さんは、さすがに途中でお帰り。しかし、高橋さんは残って打ち合わせは続く。とは言え、すごくリラックスできるリビングで美味しいお茶とお菓子を囲みながら。高橋さんにしょうぎ作曲を説明しようと、4人でしょうぎ作曲をやってみることになった。やっている途中に、尾引さんの1歳4ヶ月の息子のタクトくんが部屋に入ってきて泣き出したら、高橋さんがタクトくんを抱きかかえてあやしながら背中をポンポン叩いてリズムをとる。これも作曲の一部。それに対して、尾引さんが「仕事なんだよ!」とタクトくんに離しかける。これも作曲のうち。うん、確かに「仕事なんだよ」と主張しないと、とても仕事しているようには見えない。でも、仕事なんだよ。

こうやってできあがったしょうぎ作曲の譜面を、その原曲を知らない人が解読して演奏するとどんな音楽になるだろう?というのが、数年前から尾引さんが言っていたアイディア。まだ、試したことがない。そこで、この楽譜をえずこホールでのワークショップで解読して、どんな曲ができるかをやってみようかな、と片岡さんに手渡した。

さてさて、続いて、第2回のテーマも考え、「キッチンミュージック」に。フライパンやボウルなど、尾引邸の台所用品を叩いて遊ぶ(でも、仕事なんだよ!)。ここで、決めたこと。これを叩くのが、マレットとかで叩くといわゆる楽器っぽくなるし、割り箸やしゃもじで叩くと、色んな雑音も出る。そして、色んな雑音も出る割り箸やしゃもじの方が音色に豊かさや多様性がある。だから、マレットは使わない。こう決定。

キッチンミュージックもかなり面白いです。こちらは、キッチンガムランになるかも。1回目がマーチで西洋リズムだから、2回目はガムランでアジア的になってもいいな。

番組の最初の方は、ぼくら3人の得意楽器は使わず、一番プリミティブなところから出発。そして、ある程度続いていくなかで、楽器が解禁になり、途中では、歯ブラシと口琴とか、日用品の音と楽器の境界線がなくなり、最終的(3学期)には、様々な音が共存する本当の意味での音のハーモニーが生み出す音楽まで深めていきたい。20回続く番組の方向性、番組の哲学が、だんだんはっきりしてきた。哲学がなければ、アイディアの羅列に終わってしまうけど、ぼくらにはっきりとした哲学があれば、この番組は飽きられることのない本物になるはず。そんな入り口にぼくらは立てたようだ。

というわけで、7時間近くに及ぶ雑談のような打ち合わせのようなリハーサルのような仕事を終えて、駅前のベトナム料理の店で歓談していたら、ぼくも片岡さんもあっさり終電を逃し、尾引邸に宿泊。その後もトゥバ共和国ホーメイの名人のビデオを見たり、白石女子高吹奏楽団、大河原商業高校ギター部のDVDを見たりした。尾引さんにも、片岡さんにも、えずこホールに来てもらいますよ。よろしく!