野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

つくしの会

児童合唱団「つくしの会」を訪ねる。これが、今回のえずこでの最後のワークショップ。もと高校の音楽の先生であったというホソブチさんが自宅の中に合唱団の練習スタジオを設けていて、今年で結成37周年。つまり、ぼくの年齢と同じ。子どもたちの自主性に任せて、練習内容も子どもたちが考えてやること、歌詞の意味を掘り下げて考えて歌うことなど、色々な特色があるらしい。毎週日曜日の練習に、下は小学生から上は高校生までの50人が集まってくる。玄関に整然と所狭しと靴が並んでいたのが印象的。

それで、つくしの会の37年の歩みを考えた影響もあって、しかも、小学校2年生から高校生まで、様々な年齢の人がいたこともあったので、ぼくは思わず、病気で学校に通えなかった小学校2年生の時に作曲した「キツツキとアホードリ」を演奏してしまった。そして、病院から退院して、5年生の時に「タヌキとキツネ」を作曲したことを語り、これを演奏。さらに、中学に入って、ストレートに表現できなくなって、自分には才能がないのではと悩み作曲家になることを諦めたこと。中学生のときは、いっぱい即興演奏をしていたこと。そして、同級生の女の子に、作曲は才能がないからサラリーマンになって稼ぎながら、余暇に作曲をしようと思うと語ったら、「諦めることないよ、好きならばやればいいじゃん」と言われたのに、才能ないから無理と変に割り切って諦めていたことなどを、なぜだか告白してしまった。この「つくしの会」では、自分を隠さずに言っていいような安心感がある場作りがあるのかもしれない。だから、子どもたちも居心地がよくって、ここに集まってくるのかも。

そして、高校受験を前に、受験勉強への逃避から作曲がはかどって、組曲「ONIの衰退」を作曲したこと。ぼくは桃太郎のストーリーを下敷きにして、悪者でもなんでもない鬼が追放されて、悪者にしたてあげられ滅亡していく、というストーリーを作って作曲したことも、語ってしまった。

そして、高校生の時に初めて作曲家という人に出会ったこと。そこで、先生に直せと言われたところを直しては一流の作曲家になれない、と言われて、独学の道を決意したことを語った。和声学では、「この響きが正しい、これが禁則」と教科書にあるけど、ぼくはそういったものを無視して、全てを自分の感性で判断して、自分の作曲法を作るしかなくなった、ことを語った。

こうした話を、みんな興味を持って聞いてくれた。ここまでが、ここにいる2年生から高校生までの人たちと同じ年齢だったころ、ぼくが何に悩み何を楽しみ何を作曲していたか、という話。

それから、大学に入って、楽譜を使わない作曲法を開拓していく話に。ここで、合唱団の50人と「どうやって実がなるの」をやってみたり、「一人一音を、舌打ち鳴らしで」というのをやってみたりした。舌を鳴らすのを50人でしばらくやり続けると川のせせらぎのような音になった。これを合唱団のメンバーの一人に指揮してもらい、ぼくは川のせせらぎのようなサウンドに合わせて即興芝居をしてみた。

さらに、一人一音を「パピプペポ」の5音だけでやる「ポピピうた」をやってみた。これは、NHKの新番組の中でもあがっているアイディアで、いつかアニメ化するかもしれない。やってみたら、「パピポ星人」という宇宙人の演技をしたくなった。音そのものを楽しむのもいいが、音楽劇にどんどん結びつけていくのも楽しい。

プーフーでソニーのオーディションでグランプリになった後、レコーディングで多重録音のパンチインをしたり、サンプリングで編集したりすることで、せっかくの各自バラバラながら生きたリズム感があった演奏が、生命力を失って、ソニーとの契約が切れるまで、イギリスに行ったこと。そして、契約が切れた後も音楽業界不信から、路上演奏を中心に仕事をしたこと。子どももサラリーマンも若者もお年寄りも共有している「サザエさん」という曲をメインのレパートリーにしたことを語って、そして、サザエさんの演奏。

こんな風にして、今の自分の音楽環境に到り、こうした色んな経験を持っているから、えずこホールがぼくに音楽劇の音楽監修を依頼したのだろう、ということを語った。そして、最後に子どもたちのレパートリーをピアノ伴奏して、一緒に演奏することにした。その曲がノリはいいし、子ども達が考えたオリジナルの振り付けで踊りがあるし、すっごい楽しかった。この人たち、音楽劇できてるじゃん!

そして、終わった後、質問。「作詞もするんですか?タヌキとキツネに歌詞があったら歌ってみたいなぁ。」これは、嬉しかった。1980年に作曲してから25年間ピアノ曲として存在してきた「タヌキとキツネ」が、合唱曲になる!ぼくはアレンジしようと決意した。児童合唱団のメンバーが、あの曲を聴いてイメージした言葉を盛り込んだ合唱曲だ。

その後、さらにおったまげたのが、この合唱団、4線譜の定量記譜法で書かれたグレゴリオ聖歌とか古楽を歌っていたのだ。「先生、この赤い線は何ですか?」それはネウマ譜だった。これはこれは、本当に色んなことが一緒にできそうだぁ。

というわけで、大収穫の4日間が終わり、大河原町をあとにした。この音楽劇、とんでもないことになりますよ。3月11,12日のプレ公演でさえ、音楽チームだけで、160人(高校ギター20人、大人10人、中学吹奏楽20人、高校吹奏楽50人、小学生ヴァイオリン10人、児童合唱50人)が出演することになりそう。ただし、この中の90%以上が女性。男の人のグループをこれから探していかなくっちゃ!