野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ゲストミュージシャン到着

午前中は、ゆっくり休む。でも、ヒューは小さな子どもとのワークショップがあって、朝から出かけている(佐野さん&ザウルスは見学に行った)。イギリスに着いて、2日連続、一日中働いたので、3日目にしてやっとのんびり。
午後になると、ホエールトーン・オペラのゲストミュージシャンが続々と到着。まずは、Carol。この人は声楽家で、ブルースシンガーで、色々声を使ったワークショップをやっているらしい(音楽療法もやっているらしい)。
続いて、Charles Hayward。チャールズは、94年〜95年にイギリスに住んだ時に、プーフーの豊永亮さんの紹介で知り合った。This Heatという(伝説の)実験的ロックバンドをやっていたドラマーで日本にもファンは多い。96年には、初の日本ツアーをして(この日本ツアーのライブ録音は3枚CD化されている)、その時は一緒に回った。その後、何度か来日している。
チャールズのやっていたThis Heatというバンドは、もともとはマネージャーで音楽の素人だったGareth Willimasをメンバーにしたことでも有名。ギャレスは全く楽器が演奏できなかった。だから、楽器の演奏の仕方など関係なく、自分なりの演奏を開拓していく。チャールズ自身は凄い技術のあるドラマーなのだが、ギャレスのデタラメ奏法が作り出す音楽に可能性を感じ、長い時間をかけて共同作業を続けていく。そうやって、真に個性的な音楽を作り出したのがThis Heatだった。かつて、チャールズが身体障害の人と音楽ワークショップをしていた時、チャールズのパートナーのレスリー曰く「このワークショップの後は、ライブの後と同様に、いつもチャールズは興奮しているのよ」と言っていた。チャールズは、真の音楽を追求しているのだ。昨年チャールズの家を訪れた時、彼のやったコミュニティワークを聞かせてもらった。子どもや一般の人とピクニックに行って、その場でみんなが演奏した音を録音して、それを素材に曲を作っているようだったが、そこにある音楽の強度は、まさしくチャールズ・ヘイワードの音楽だった。そのままCD発売していい音楽だった。いかなる状況でも、彼は真剣に音楽をしているのだ。
もう一人のゲスト・ミュージシャンは、Pete Moser。ピートは、モアカムにある大きなコミュニティ・ミュージックセンターのディレクターで、最近、コミュニティ・ミュージックに関する本を監修した。トランペットを吹き、ワンマンバンドをする大道芸人で、チャールズとは別の意味で、強烈なパフォーマーだ。
3人が到着し、佐野さんがローリー(ヒューの息子10歳)と相撲ファイトをしている間、ぼくはヒューと打ち合わせ。昨日、一昨日に出て来たシーンを組み合わせて、第4幕のストーリーを作った。使うべき場面は、「震えとうがい」、「船」、「ゴミ袋とカバのホケット」、「ジャマイカの牛の秘密の言葉」、「誘惑のドラム」、「ルールによる即興」、「ヘンパーティー」、「夢」。これを組み合わせて、以下のようなストーリーを作った。
1 ゴミ袋とカバのホケット(海岸の情景)
2 日本からの悪い知らせ
3 船の旅
4 嵐(ルールによる即興)
5 ジャマイカの牛の秘密の言葉
6 2つのダンス(誘惑のドラムと、5/4拍子)
7 カバと牛が恋に落ちる(震えとうがい)
8 ヘンパーティー
9 結婚式
10 夢

あらすじは、海岸にいるカバに日本から知らせが届く。日本は何者かに侵略されているので、助けてくれ、と。そこで、カバは船で日本を目指す。しかし、途中で嵐にあって、ジャマイカに着いてしまう。そこで、カバは牛と出会い、牛の秘密の言葉を教わり、誘惑されて、恋に落ち、結婚する。そして、エンディングの夢があって、おしまい。

10分相談して、ストーリーが完成してしまった。これまでは、歌ではなく、音と動きだけをやってきたが、今日から歌を作ろう。「日本からの悪い知らせ」、「船の旅」、「ジャマイカの牛」、「恋に落ちる」、「結婚式」の5曲を作ることにした。

6:30からワークショップ。まず、ゲストの紹介。チャールズがドラムを叩く。圧倒的な存在感のある音、気持ちのこもった音。素晴らしい。続いてピートがアコーディオンを弾く。今度はみんなの笑いを誘う。続いてピートはワンマンバンドのコスチュームに着替えて、稽古場が大道芸の道路のような雰囲気になる。この二人のあとのキャロルは、ちょっと厳しかった。もちろん、歌もうまいし、迫力もあるのだけど、前の二人があまりにも優れたパフォーマーだけに、少し物足りなさを感じた。
それから、4グループに分かれて歌づくり。ヒューが「ノムラもどれかのグループに入る?」と尋ねてきたら、フランク(ヒューの息子12歳)が、「入ってほしい」と言ってきた。昨日、一昨日のグループワークには、ぼくは入らなかった。その間を使って、全幕上演の打ち合わせとかをしていたが、今日は昼間もいっぱい休んだし、フルで働くことにしよう。

クリッシーは、ハダスフィールド大学でのヒューの教え子で、メレディス・モンクに習いにニューヨークに行ったこともある声の音楽家トロンボーン奏者でもある)だが、彼女は老人ホームでも音楽をしていて、老人ホームで「しょうぎ作曲」をした、と言っていた。「しょうぎ作曲」もポピュラーになったものだ。

ホエールトーン・オペラのワークショップには、Full Body & The Voiceという知的障害の人の劇団のメンバーが4人参加している。彼らはもちろん言葉も喋り、ぼくと同じ程度には英語を理解するが、あまり複雑なルール設定だと、分からなくなる。しかし、逆にパフォーマーとして存在感があったり、面白い表現をしたりする。

さて、ぼくはジャマイカの牛を担当。Full Bodyのメンバーのマリリン、中学生のローラ、高校生のベッキー、それに加奈ちゃんとぼくの5人がこのグループに来た。日本人や知的障害の人がいるため、歌詞がシンプルになる。I am hypo. I am cow. Cow meets hypo in Jamaica. Here is Jamaica. Everybody dancing. こうした単純な歌詞で曲を作っていった。ローラがジャマイカだから太鼓使いたい、と言って太鼓をとってくる。Here is Jamaica.を歌った後に、みんなでnot Japan!って台詞で言おうよ。中学生がリードしていく感じがいい。牛を低い声で、カバを高い声で言おうか、とぼくが提案。すると、またローラとベッキーが名案。牛は女声で低い声、カバは男性で高い声。女の人が無理して低い声を出し、男の人が無理して高い声を出す。その発想が面白い。I am hypo.のリズムを決めてマリリンに教えようとするが、マリリンは別のリズムで返してきた。だったら、マリリンのリズムを採用しよう。そして、マリリンの叩いた太鼓のリズムが3連符系のリズムで面白かったので、そのリズムに合わせてぼくが鍵ハモでコードを刻むと、それに合わせて加奈ちゃんが、Cow meets hypo in Jamaica.と歌い、曲が完成。メンバー全員のアイディアが入った曲になった。

さて、4グループの発表。「日本の悪い知らせ」は、キャロルとチャールズが入ったグループ。キャロルがリードして作ったようで、かなり長い歌詞の熱唱する歌になっていた。チャールズのドラムがカッコイイ。続いて、「船の旅」はピートがリード。まず、みんなで船の絵を描くところから歌づくりを開始。船出への準備とか、乗り組み員の紹介やら、全部で3つも歌を作っていた。コール&レスポンスで全員が参加できるように工夫されていたり、全員で違ったピッチで歌ってハーモニーを作ったり、ピートらしい歌づくりだ。続いて、我々のジャマイカの牛は、バカ受けして、その後。、ヒューのグループ「恋に落ちる」だが、ここでのフランクの作ったクラリネットのメロディーやベン(Full Bodyメンバー)の歌など、最高だったし、ヒューらしいシンプルで美しく、不思議な香のある歌を作っていた。

4グループを比較するのも変だが、ヒューのグループとぼくのグループは、Full Bodyのメンバーが歌づくりに対等に関わっていて、他の2グループでは、知的障害だから蚊屋の外、という感じがしなくもなかった。

その後、パブに行って、打ち合わせ。明日以降の展望が少しクリアになってきた。