野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ホエールトーン4日目

朝、目が覚めてから、今日のワークショップのことを考える。ヒューの知り合いであるピートやキャロルは、ヒューとのコミュニケートがうまくいっているが、もともとぼくの友人であるチャールズとザウルスの持ち味が、昨日のワークショップでは出ていなかったように思った。この二人は、ぼくの友人だけあって、浮いていると思う(個性が突出している)。その個性が調和乱すのでは、と遠慮してはいけない。この二人の個性が調和をどんどん乱していった方が、作品が面白い方向に向かうだろう。そこを意識しよう、とカナちゃんに説明。
朝10時からワークショップ。全員を集めて、「今日は今から、各シーンごとに順番にアレンジして、作り込んでいきます。」とぼくが説明。ところが、ヒューが、「まず、ウォーミングアップに、第1幕のどうやって実がなるの、をやってみよう」と言う。ここは、彼の意見に従ったが、作品づくりに時間を割きたい時に、ウォーミングアップをする意味が、ぼくには分からない。かつて、第1幕の時も本番の前日の朝、ヒューがウォーミングアップにゲームをやりたい、と言った。ところが、その時は、ワークショップが始まる前に雑談から自然発生的にリハーサルが始まり、始めの挨拶もないまま、3時間ほど作品づくりがノンストップで続いたので、ゲームはやらなかった。ウォーミングアップの必要性も感じなかった。その経験があるのに、同じ状況(本番前日)の今日、ウォーミングアップをしようと言ったヒュー。これは、癖なんだろうな。まぁ、今日は彼のやり方に従ってみよう。
「どうやって実がなるの」をやっている時に、ザウルスがただ歌うだけでなく、他の人と手をつないで引っ張り回したりして、違うことを始めた。ぼくもピートの持って来たお囃子の太鼓を叩いてみた。今、ぼくたちはクリエイトしたいのだ。曲の終わりに、ザウルスとデイブと、その他色々が集まった人間彫刻ができた。ぼくは、「これは何のフルーツだろうね?」と質問。「パッションフルーツ」と返答。そう、その演奏にはパッションがあった。
それから、シーン1「海岸のゴミとカバ」を、まずは作ったグループにやってもらう。ゆっくり見ている時間はないので、途中で止めて、「誰かカバ役が必要ですね。カバがここにいた方がいい。」と提案。デイブがカバ役になる。それから、「波の音などを他の人が声でやりましょう」、「ゴミは徐々に波に乗って流されてくるように、みんなが運ぶ」などと、ぼくが先に指示を出すと、他の人たちも、もう少しこうした方がいい、とか言い始めて、作品づくりが始まる雰囲気になる。でも、チャールズからは一言も出てこない。彼は遠慮しているのか、状況が把握できていないのか、分からないが、彼に来てもらった以上、彼の音楽的美意識が作品に反影されて欲しい。ぼくはチャールズのところに行って、耳元で「この作品を音楽的に良くするのにどうしたらいいか、何か提案はないか?」と質問した。チャールズは、ちょっと考えてから、「あの3人は何やってるの?」と質問。ぼくは「海岸のゴミの妖精」と答える。「だったらゴミで衣装を作ったら?そうしないと意味不明だよ。」とチャールズ。そこで、ぼくは全員を制して、「今、チャールズから提案があったのだけど、ゴミの3人はゴミで衣装を作った方がいい、って。」と言う。すると、チャールズも「全面ゴミで、人間を感じさせないのがいい」と言ってくれる。これをきっかけに、この場面の声の演奏も全員観客の背後に回ってやって、とチャールズが仕切り始めた。これで、ゲストミュージシャンの3人が作品づくりのために対等に発言できる場ができたように思う。
こうしてできたシーン1は、ビジュアルにも面白く、音も美しくなった。続いて、シーン2「日本からの悪い知らせ」。これは、昨日キャロルとチャールズのいたグループの歌。悪い知らせのわりに、メロディーが暗くないので、悪い知らせの感じがしない。そこで、結構アレンジに苦労した。細かくアレンジして、しかも、曲の途中で、チャールズのドラムと、ぼくとカナの鍵ハモで、かなり不協和な音、リズムや調から飛び出した音で、悪い知らせを表現したら、かなり良くなった。
シーン3の「船の旅」は船のグループだけで、残りのメンバーは別室でシーン5の「ジャマイカの牛に会う」をやった。シーン5は、人数が増えて迫力が増したし、3声部に分かれる部分、インストの部分などができて、曲がより豊かになった。シーン3も、かなり良くなった。佐野さんが「どっちも面白いですね。今日、本番できるんじゃないですか?」と言う。
昼食を「Tokyo」という店で食べる。食べたのはこてこてのイギリス料理、日本の食べ物は皆無。でも、東京らしい。
午後も、残りのシーンを作っていった。あとは、順調に進む。「嵐」の場面は、ピートの仮面つきワンマンバンドとチャールズのドラム、それに旗を持った人や太鼓で、海賊が現れたような雰囲気の音楽になった。「ジャマイカの2つのダンス」では、牛役がザウルスに決定。牛がカバを誘惑する。5/4拍子の曲のメロディーをぼくが即席で作ったら、みんな気に入って耳に残ったみたい。「ジャマイカの牛の秘密の言葉」では、ぼくとカナちゃんも牛役になった。「ヘンパーティー」はザウルスが大活躍、エンディングも美しくできた。結婚の前に、ピートがワンマンバンドとたくさんの太木のばちでのアルプス一万尺的な合奏を挿入したいと提案して、それもできた。これで、時間切れ。「結婚式」の曲以外が完成。今朝のウォーミングアップは、やっぱり余分だったかも?全曲完成していれば、明日の朝一番に通し稽古ができたのに・・・。
それから、みんなでインド料理のレストランに。みんなと話すチャンスだが、佐野さんも明日の公演が終わったら日本なので、全幕上演のことや、10周年記念のことで、いろいろ話がしたいみたいで、そこは仕方がないので、佐野さんといっぱい話す。あと、ザウルスも色々一人で考えていて話し相手も欲しそうなので、ザウルスとも話す。ま、今日はメンバー同士で話してくれればいい。この二人と話すのが大切だな、と思った。全幕上演のアイディアが少しずつクリアになる。
ということで、いよいよ明日が本番。