野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

徳島県立美術館2日目

徳島県立近代美術館のワークショップ2日目。今日は、昨日のワークショップが終わった状態で楽器も散らばっている。2日目から参加の子どもが5人もいた。始まる前から楽器を思いっきり演奏してた。
初対面の人(5人の子どもを含む)が半分くらいいるので、ぼくの自己紹介をする必要が出てきて、で、どうしようかなと思っていたら、林加奈ちゃんが「まず、業務連絡・・・」と言い始めたので、業務連絡で始まるのは避けたいなと瞬間的に思って、「まず、自己紹介代わりに即興演奏します」と即興演奏を始めた。始めてみたら、ぼくとカナちゃんの演奏は予想外に噛み合わないので、まずは自分が止めてみてカナちゃんの演奏を聴いてみた。そこから、どう展開するのだろう?そのうち、カナちゃんが凄い激しく演奏するので、「もっと小さく」とか「もっと激しく」とか「もっと面白く」とか注文を付けているうちに、なんだか、みんなも笑ったりして、どうやら自己紹介にはなってきたよう。そのまま、カナちゃんに「クラリネットをもつアルルカン」になってもらって、そこに全員が楽器で加わって、なんとなく活動の説明にもなったようで、そのまま昨日やり残したマティスの作品に取り組む。最後に大きい声を出すことになったこの作品のタイトルは、「狼」だった。この叫び声は狼の遠ぼえだったのか、はたまた狼に襲われた人間の叫びだったのか?
続いて、シャガールの海が出てくる絵に取り組んだ。この絵はとにかく色んなものが隠れている。何が描かれているかをじっくり見てみることにした。「魂」、「若いカップルが死んでる」、「猪とウマ」、「街」、「ペンギンの乗っているヨット」などなど。とくに小学生の3人兄弟が、絵に貼り付く勢いで、説明し続ける。そこで、この登場した全要素を音で表現してみたい。空間的にも絵と同じように配置して、自分のやりたいものを担当。山はボーイッシュな女の子がウクレレ、月をやる人が5人も。海の中の魚は美術館の友井さん。街はバラフォン(木琴)で徳島文理大で音楽療法を学ぶ学生さん。魂は3人で渋い金属の響き。猪とウマは、昨日取材して今日は一参加者として参加したくなった新聞記者さん。ペンギンは希望者がいなかったのでカナちゃん。若いカップルは、高松から来てくれた男性のアコーディオン。そして、老人をやったのが3人の子どもたち。すごく元気のいい老人だった。
このシャガールの絵は「ダフニスとクロエ」の「木霊」というタイトルだった。ラヴェルの「ダフニス」とは全く違う音楽だけど、なんだかオモチャ楽器による印象派音楽という気もするな、と妙に納得。とにかく、1枚の小さな絵にじっくり付き合って、それが一つの曲になる作業が面白い。
休憩後にイギリスでやったゴヤの絵に合わせて音楽を作った映像を上映した後、巨大な雪の降る屏風型の日本絵画に取り組むことになった。シャガールと同様に何が描いてあるか尋ねてみるけど、あまりに具体的で、誰が見ても、雪、木、草、竹。解釈や創造の余地は、どうも別なところにあるみたい。そこで、この絵を見ながら、全員で自由に演奏してみた。かなり長時間演奏し続けた。この絵は、第1感は、静かな情景だと思ったのだが、実際演奏してみると、とにかく渾沌となりかかった激しい音になる。その音を聞きながら絵を見ると、なんだか激しい絵に見えてくる。雪の降る風景。一見平和そうなのに、この絵はすごい激しいんだ。その隠れた内面を掘り起こした気がした。この曲は、あんまり細かく決めごとしない方がいいようだ。
最後に、少しだけ時間が余った。残った絵を全部取り上げて1曲の演奏をすることになった。これは曲の構成を考える感じ。どの絵がイントロ?どれがエンディング?どれがソロ?などと、絵の印象を瞬時に聴いて並べ換える。そうやって、一枚一枚の絵を微細に見るのではなく、大雑把に10枚の連作の一枚として、駆け抜けるように見て演奏したら、どんな音楽になるのだろう?そのまま10枚の絵を見て、最後のシャガールの絵で感じるように終わるはずだったのに、その先にニジンスキー兎の彫刻がいた。これで終わりと思って兎の真似をしたら、順に楽器を離れて兎になっていくパフォーマンスになって、終わっていった。一日目の終わりもウサギだった。2日目もそうするつもりがなかったのに、やっぱり終わりはウサギになった。このウサギは終わりになると顔を出してくる不思議な力を持っているらしい。何でなのか、もう少し作品背景が知りたくなってきた。
こうして、2日間のワークショップが終了。美術館のスタッフ、参加者がすごく感じがよく、かなりルンルン気分での帰り道だった。しかし、鳴門のうずしおを見たいと意気込んだカナちゃんは、橋の上から必死に見るが見つからず、残念。
京都に戻り、録音を少し聴く。いい感じの音にとれている。この音が美術館で流れる情景を想像し、ニャッとなった。今回は、色んな作品を次々にやったけど、10月のワークショップでは、グループに分かれて、一つの作品をもっともっと掘り下げて、じっくり音楽を作ってみたい。もっと、絵とじっくり付き合うとどんな音楽になるのだろう。10月が楽しみです。