野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

つるおかさんの絵を音にする

群馬県の館林美術館に来ています。

P-ブロッの林加奈鈴木潤と3人で絵を音楽にするワークショップをやりました。メンバーは小学生から大人まで約15人。

15時〜18時のワークショップでした。14時半ごろからワークショップルームに集まり始めて、どんどん楽器を鳴らしていたので、15時の時点では、既に皆さんウォーミングアップ完了でした。

まずは、一昨年に徳島近代美術館でやった絵を音楽にするワークショップの映像を見てもらい、今日の趣旨説明。

ただ、ここには絵が一枚もないので(そして、こちらの主任学芸員の香織さんが林加奈ちゃんと同じ芸大の出身で、カナちゃんが空手部、香織さんがフラメンコ部出身で、その話題で盛り上がっていたので)、ここで、空手やフラメンコを指揮者に見立てて演奏する、というのをやってみました。そして、その流れで、参加者の皆さんにダンスする指揮者をやってもらいました。このダンスが、皆さんかなり良い。参加者の中には、早川朋子さんのワークショップでダンスに抵抗がなくなった人、はじけられた人もいるようで、この時点で、相当面白い。

でも、このままだと、絵を音楽にするワークショップではなく、ダンスを音楽にするワークショップになってしまうので、ここで、絵を描く人を指揮者にして演奏してみました。そうすると、絵を描く人はダンサーとも見れるし、しかし、その結果、絵もできあがります。

こんな感じで、一応、絵に気持ちが戻ったところで、展覧会場へ。

まずは、一つの展示室の中で、各自自分がやってみたい絵を選んでもらいました。5種類の絵が選ばれた。そこで、一点ずつ、その絵を見ながらどうやって演奏するかを考える。

まず、最初の絵は「ドン・キホーテ」という絵。選んだ方によれば、さびしい感じの絵なので、2,3人で静かに演奏するとのこと。そこで、まず、この絵を選んだ2人に楽器を選んでもらい演奏してもらった。なかなか味わいがあり、絵も違って見えてくる。

さらに、別の二人で同じ絵をやったらどうなるだろう?そこで、小学2年生と3年生の少年二人(この二人は口琴に興味を示していたので)の口琴デュオ。音が出たり出なかったり。相当音量も小さいので、聴くほうもすごく集中する。二人はその集中を感じながら演奏し、とにかくかすかな音でビヨンビヨン。やりながら上達。そして、いつまでたってもやめない。かなりかなり長い時間がたち、それでも、やめず、でもやめないでいたら、だんだん上達するところもあり。最後に二人はなんとか意思疎通して終わっていた。とてもよいデュオだった。そして、ここを境に、ものすごく音に繊細な場が生まれた気がします。

次の絵は「黒い行列」。この絵を選んだのは二人の小学生。この絵を見て、たくさんの人がいるみたいに見えるから、だんだん楽器が増えていったらいいのでは、とのこと。では、どうやって増やしていこう?と質問したら、両手の平を上に向けて、「わかりません」のポーズをしながら「それが知らない」とのこと。このポーズと絵が似ているので、全員がこのポーズをして止まっているが、楽器を渡された人から演奏できるということにした。だんだん楽器が増えていく。終わり方は決めていなかったけれど、なぜかうまく終われた。

続いて「はじまり」。この絵を選んだ男性は、この絵の鋭さを出すために全員鋭い音にしようと提案。各自、鋭い音のすると思われる楽器を選択。そして、鋭い指揮をこの男性がされた。

続いて、アコーディオンのような蛇腹も見える絵(タイトルなんだったっけ)。この絵を選んだ兄弟から腕に口をつけて、おならの音のようにブーとやる奏法が提案された。そして、兄が銅鑼を鳴らすと全員がブーとやる、もう一度銅鑼を鳴らすと止める、という曲になった。さらに、続けていく中で、ブーという音がない無音の場面に、スライドホイッスルとアコーディオンを入れることになった。

この時点でなんと、16時50分。2時間休みなく続けていたが、みんな集中しているので、休むことに気がつかないでいた。ここで銅鑼を叩いた少年が、みんなブーとやってたくさん息を使って疲れたから、5分休憩にしよう、と休憩時間まで決めてくれた。ありがたいものだ。この少年について、潤さんは平盛小学校の山田くんを思い出す、と言っていた(最初は乗り気じゃなさそうなのに、あるところでスイッチが入ると集中して積極的に参加して、リーダーシップを発揮するところ)。

そして、「森の騎手」。ここでは、ギターを持ってきていた男性がギターをやろうとしたが、銅鑼を鳴らした子の弟が、どうしてもギターをやりたがるので、男性はフレットを押さえてコードを変えるが、少年は右手でじゃらじゃらカッティングという合体奏法が生まれる。実際、絵でも馬なのに、足は人間の指の形をしているなど合体しているので、関係性もある。別のシャイな小さな男の子は、スライドホイッスルをくわえたまま、でもなかなか音が出せずにいる。ぼくは何度か目があったので、うんうん、とうなづいていたら、最後の方で音が出てきた。

ということで、残り40分ほどで、3グループに分かれて、活動することに。潤さんチーム、カナちゃんチーム、野村チームと分かれる。分け方は各自で参加したい講師を選ぶ、ただし、誰かばっかり人気があったら凹むので、かたよりが出ないように少しは気を使ってください、と注釈をつけて。

ぼくのグループに、さっきの曲の終わりごろにスライドホイッスルで音が出てきた男の子が来た。男の子は、自信をつけたのか、自分で絵を選んだ。彼の選んだ絵が、この展示の中ではかなり渋い絵で、「海の〜〜〜」(〜〜〜部分は思い出せない)というタイトルの絵。波のようにも川のようにも空のようにも見える。それを演奏した。

このワークショップでは、絵のバックグラウンドについては事前に聞かずにやっています。あくまで情報ゼロで絵にまっすぐ向き合う。とにかく、見る。そして、そこから手がかりを見つけて曲を演奏する。明日の15時からのコンサートでは、それぞれの曲を演奏し、演奏した後に、学芸員の方から絵の解説をしていただくことになっています。はたして、ぼくたちの解釈はどれだけ正しいのだろうか?

すぐに1曲できたので、もう1曲。「射的」という絵を選ぶ。キャプションにタイトルがあるのですが、漢字のため子どもたちにはタイトルが読めない。だから、絵だけを見て考える。射的とあるとその先入観が入るが、射的という絵が映画館になったり、鍵盤になったり、していく。この曲は、絵に平行線や四角が多いところから、鍵盤楽器など四角い楽器を中心に組み立てた。

最後にグループごとの発表。

カナちゃんグループの2枚の絵を選んだ曲も面白かった。左の絵は暗い感じ、右の絵は明るい絵。指揮者がどちらかの絵を指すと、各自楽器を持ち変えて、曲調が変わる。

潤さんの「ライフルマン」は、芝居仕立てになっていて、途中でラッパを吹きながら攻めてきた人たちが、締め出されていく曲。

もう一個のカナちゃんグループの曲「リズム」は、抽象的な形に対応する音をそれぞれが決めて、横長の絵を指揮者が右から左に移動すると、オルゴールやピアノロールを演奏するように、対応する形が音になるという曲。

ということで、10曲もできてしまいました。

6月10日の15時から館林美術館で演奏会+作品ミニレクチャーあります。東京からも自動車でも1時間。北千住からも電車で1時間で来られるので、群馬以外の、埼玉、栃木、東京、茨城などの方も、ぜひ、お越しください。