野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

田舎のガムラン

ポンジョンの崖の上での演奏は、昨日思う存分やったので、今日は違うことをしよう。まずは、牛小屋の牛とのセッション。昨年、岐阜で撮影した「ブタとの音楽」、バーミンガム郊外で撮影した「ウマとの音楽」は、いずれもぼく一人で演奏したが、今回は、ダンサーもいるし、また新しい展開が期待される。
すると、スボウォが、すぐに上半身裸になり、そのまま牛小屋に向かい、牛になりきった踊りで牛小屋に入っていった。昨日は、誰か崖から転落するのではないか、と見ていてはらはらしたが、今日は牛が暴れたりしたら大怪我してもおかしくないので、見ていてはらはらした。しかし、スボウォは、本気で牛になりきり、牛とコミュニケートするダンスをした。この人の本気ぶりはすごい。佐久間君もスボウォに遅れて、牛小屋に入って共演。他の音楽陣は牛小屋の周りで演奏。やぎやニワトリも共演。これで、牛との共演の撮影完了。これも、一本の映像作品に仕上がるだろう。楽しみ。
マンディする泉の近くの鳴き声の面白いやぎを訪ねて行ったら、そこの家にお茶をご馳走になった。なんでも、この辺一帯の300家族全てに、ぼくらが来てプロジェクトをしているという手紙が配布されているようだ。びっくり。                   「外国人がこの村に来たことがありますか?」                    と質問すると、アラブ人が以前来てモスクを作ったことがあるらしい。アナン曰く    「アラブ人はモスクを作り、日本人は音楽を作った」
ジョグジャテレビが取材に来ることになったが、道に迷ってなかなかたどり着かない。気にせず、ぼくたちは斜面の絶景ポイントで演奏。あり得ないような日没の風景の中で音楽ができて、本当に幸せ。これは、言葉では表現できません。佐久間くんは、岩の上で本当に楽しそうに踊っていた。こんなに踊ることに幸せを感じて踊っている姿は、随分昔に山下残くんが踊っているときを思い出す。佐久間君には、すごく可能性を感じてしまう。日没の中、中川真が地面を直接バチで演奏しながら、とてもいい音を出していた。
日が暮れた。しかし、ジョグジャテレビはまだ迷っているらしい。お昼に出たはずのアスモロ(作曲家)ご一行が日没後かなりたって到着した。何度も道に迷い続けて、ついに到着したらしい。しかも、楽器持参でやる気満々。ジョグジャから最短でも2時間かかるのに、みんな訪ねてくる。山奥でやれば来訪者がない、という真さんの思惑ははずれた。どこまで行ってもインドネシア人は訪ねてくるのだ。
そこで、またまた真っ暗闇の野外で即興演奏会。ところが、合宿3日目。即興でやっているのに、同時に終わったり、まるで曲のような展開が何度もあり、中川真も驚く。即興セッションが終わっても、ジョグジャテレビは来なかった。多分迷い続けて帰って行ったのだろう。
それから、村のガムランの練習を見に行った。鉄でできた安物のガムランを30人以上の村人が本当に楽しそうに演奏し続けている。そこにできあがっているノリが本当にいいのだ。洗練された演奏とは全然違う、でもすごくイキイキした躍動する音楽がそこにはあった。ガムランの専門家のスボウォも、全く同じ感想を持ったようで、ぼくらは、みんなその懐かしい情景を見て泣きそうになっていた。そう、懐かしい情景。別に見たことなんてないのに。でも懐かしいと思える演奏。何がそうさせるのだろう。これができれば、マルガサリは数段いい演奏グループになれるのに。