野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

スワルトさんの高校で

 舞踊家のスワルトさんの教えている高校に、ワークショップに行きました。昨日から、日本から山下彩子さん(ダンサー)と、千田美智子さん(俳優)が妻を訪ねて来ており、彼女達も見学したいと同行してくれました。スワルトさんは、この学校で舞踊と伝統音楽とジャワ語を教えているらしいです。今日のワークショップをするクラスは、物理や化学や数学などの授業は、先生は基本、英語で授業するらしいのです。もちろん、補足的にインドネシア語も使うそうですが。この学校は、日本語の授業もあって、ガムランがある珍しい高校なのです。インドネシアの全国日本語コンテストで優勝したアナンタ君がいて、彼は実に日本語が上手なのです。でも、
 「私の名前はアナンタです。」
と言われた時は、
 「私の名前はあなたです。」
と聞き違え、最初、意味が分かりませんでした。今日のワークショップは結果としては、4部構成になりました。

1)野村の紹介と生徒の紹介
冒頭で、鍵盤ハーモニカのソロの即興を聞いてもらい、続いて、生徒たちに普段やっているガムランの演奏をやってもらう。まずは、それぞれの紹介。

2)ガムラン音楽の実験作曲 文章から音楽

 「今から、実験音楽の作曲をやってみますね。日本語には、あ、い、う、え、お、と5つの音があります。この5つの音と、音階の5つの音を関係させてみましょう。例えば、あ→1、い→2、う→3、え→5、お→6としてみます。で、Nama saya Makoto(私の名前はマコトです)だったら、《a,a,a,a,a,o,o》だから、《1111166》というメロディーになります。これを演奏してみましょう。」
ってな具合で始めてみました。それで、生徒に文章を作ってもらうと、Karawitan musik yang paling saya suka(伝統音楽は、私が一番好きな音楽です)と優等生な一文を書いてくれた。これから母音だけ取り出すと、《a,a,i,a,u,i,a,i,a,a,u,a》となり、これを音に置き換えると、《1121321121131》となりました。これを4音ずつでグループにしたら、《1121 3211 2113 1》となったので、ガムランの先生(昨日来たクリスさん)が、
「最後の1でゴングを鳴らそう」
と提案して、これを楽器で演奏。なかなか面白い。続いて、もう一個、作文してもらうと、今度はジャワ語で、Kula Badeh Sinau Karawitan(私は伝統音楽を勉強したいです)と書いていくと、各スペースがなくなって、あ→1を消してしまった。そこで、《い→2、う→3、え→5、お→6》の右側に、あ→7を書き足して、《い→2、う→3、え→5、お→6、あ→7》という対応に変更。この文章から母音だけを取り出すと、《u,a,a,e,i,a,u,a,a,i,a》となり、《37752737727》というメロディーになる。これを、さっきのメロディーと交互に演奏すると、なかなか良い曲になりました。
 ここで、せっかくダンサーが見学に来ているので、踊ってもらおうと思い、今生まれたばかりの新曲で、山下さんに即興で踊ってもらう。これがなかなか良かったのです。で、ここで、あ、日本語の優勝者がいると気づき、山下さんに質問してもらい、アナンタ君に通訳してもらった。
 
3)10秒ソロリレー 楽器と、踊りと、喋りのソロ

 「さっきは、文章と音楽の関係をやりました。今度は、動きと音楽の関係をやります。楽器は、普通の伝統的な演奏以外に、色々な動きで新しい演奏テクニックを考えることができます。」
と言って、変わった演奏のテクニックを考えてもらう。でも、そうやって喋っているうちに、演じて踊るバンド『門限ズ』(野村誠+遠田誠+倉品淳子+吉野さつき)でやっている10秒ソロリレーをやることを思いつく。つまり、10秒間サロン(鉄琴)を演奏し、10秒間クンダン(太鼓)を演奏し、10秒間踊り、10秒間喋る、というのを、全員に次々にやってもらいました。これを言ったら、生徒達は予想通り、恥ずかしがります。ジャワ人は、とにかく恥ずかしがりなのです。でも、実際にやってもらうと、恥ずかしがりながら踊った踊りにも、相当バラエティがあり、面白かったのです。いやぁ、良かった。

4)全員セッション

では、最後に全員でセッションをしてはどうか、とクリス先生から提案がありました。つまり、生徒がガムランを演奏し、ぼくが鍵ハモを演奏し、山下さんが踊ったり、、、、、ということです。やぶさんは、クンダンの演奏に加わり、千田さんは歌い、山下さんが踊り、それにスワルト先生がセッションで加わる。スボウォさんは、これを温かい笑顔で見守っていました。

 ということで、インドネシアガムランの創作ワークショップ初体験でした。また、日本からの新鮮な風も体験できて良かったです。ただし、今回は色々試してみたという感覚はありますが、本当に圧倒的な音楽体験をできたわけではありません。ちょっとガムラン遊びの体験、創作の入り口です。しかし、今回の体験を経て、10秒ソロリレーを発展させて、もっと深い音楽体験にできる手応えは得ました。今度、それを実現してみたいと思います。ここでやるのか、それとも芸大でやるのかは分かりませんが、、、。そういう意味でも、こうした音楽の実験をする機会が得られるのは、ワークショップの良いところです。機会を作ってくれたスボウォさん、スワルトさんに感謝です。
 そして、学校から記念品などを贈呈され、写真撮影などした後、帰り道、スボウォさんとお茶をしました。4月29日の世界舞踊の日では、シンガポールとソロとジョグジャの舞踊家3人で踊り、音楽はシンガポールの音楽家二人とスボウォさんとぼくとアセップさん(ジョグジャの芸大の伝統音楽科の先生で、西ジャワの音楽が専門)でやることになるらしい。世界舞踊の日(Hari Tari Dunia)では、朝から晩まで、合計80演目が繰り広げられる大フェスティバルらしい。
 スボウォさんの舞踊の先生から譲り受けたRujiという即興舞踊の技法を、明日教えてもらえることになった。スボウォさんの先生が、アメリカの身体技法とジャワ舞踊を融合させて完成させた即興舞踊のやり方らしい。スボウォさんは、山下さん、千田さんが帰国する前に、舞踊家を集めて、即興セッションの会を開催しても良いなぁ、と次なる舞踊の集いの企画を考え始めました。ジョグジャのディープな舞踊ワールドに、どんどん足を踏み込んでいくことになりそうです。