野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

田んぼの畦道

ポンジョンの崖での3日間のテント生活を終え、次の目的地に向かう。随分下ったけど、それでもまだ標高3〜400メートルで、ジョグジャから見れば十分な山の中。
ポンジョンで十分演奏し続けたし、今日は特に何もしなくてもいいな、と思っていた。で、ごろごろしていたのに、ちょっと散歩しましょう、と案内してもらった先が広大な田んぼ。その畦道を歩いていくうちに、はからずして、また即興が始まり、撮影が始まった。
きっかけは、佐久間君がズボンをまくって泥の中に足からズボッとつかったところから。その後、行く先々に、休憩する小屋があったり、絵に描いたような(やらせのように)一列に並んで田植えをするおばちゃん達が現れたり。この後のスボウォの演奏が冴えていた。田植えのおばちゃんを見ながら、鈴を鳴らす音が最高。ぼくは、その鈴の音に触発されて鍵盤ハーモニカで和音を奏で始める。ただし、この和音が雰囲気があるので、このまま収束しかねないから、何か展開したいな、と思っているところで、スボウォと中川真さんでの素敵なデュオが始まり、その後も畦道を進む中、スボウォは好調で、水路の水を足や手でバシャンバシャンとやって演奏するのだが、その音色がさすが天才的パーカッショニスト。水だけで、あれだけの音色を出せるのには、脱帽。アナンとぼくとスボウォの3人で水のアンサンブル。作品を作ろうとしないのに、散歩しているうちにできてしまった。
夕方、スボウォにインタビューすることにした。彼は英語があまり得意ではないので、なかなか突っ込んだ話ができなかったが、佐久間君に通訳してもらい話が聞けた。彼は、余計な鎧をはずして、本質にまっすぐたどり着くためのプロセスを、ぼくらと一緒に行っていたのだ、と言葉でも確認できた。かなり嬉しかった。
夜、もうこれ以上演奏しなくてもいいと思っているところ、真さんが月明かりの下、クンダンをカタカタと発音し始めた。そこから、誰とはなしに最後の夜のセッションが始まった。今までは演奏者同士の間に自然のいろんなものがあったけど、今夜は演奏者の周りを自然が取り囲んでいる感じで、お互いのやりとりにフォーカスがあたった感じ。ぼくは、走り回ったりした後に、みんなに見えない場所でスローモーションで歩き始めた。みんなに見える場所に至るまでどれだけの時間がかかったのか?ひょっとしたら、20〜30分くらいかかったかもしれない。そして、スローモーションで踊り手や音楽家のいる空間にゆっくり気迫を込めて入って行った。この時間はすごく劇的だった。
このセッションが終わった後、スボウォが「ありがとう。ダンスが最高だった。」とかなり感激してぼくに握手を求めてきた。
月明かりの下、ぼくらは感想を言い合った。いつの間にかゼミナール状態。今まで毎日ずっと即興パフォーマンスを続けてきて、今、みんなが語り合いたい気分になってきた。自然と振り返りながら、1時間以上語り続けた。これで、いよいよぼくらの合宿が終わっていく。