野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

ベン・スハルトさんの精神

 インドネシアジョグジャカルタでの日々です。舞踊家のスワルトさんと、作曲家/舞踊家のスボウォさんが、彼らの先生であるベン・スハルトさんのRujiという舞踊即興のメソッドを教えに訪ねてきてくれました。Rujiというのは、傘の骨とか、自転車のタイヤの車輪の輻を指すインドネシア語。このテクニックを継承している人は、5人しかいないそうです。このワークショップを、日本から来ているダンサーの山下さん、俳優の千田さんと、やぶさんとぼくの4人で贅沢にも体験させていただきました。
 スボウォさんは、かばんから車輪の輻を出して、スワルトさんに手渡す。スワルトさんは、それをL字状に垂直に折り曲げ、そのL字の金属棒を右手に一つ、左手に一つ持つ。
「動かそうとしないで、それぞれの先端に意識を集中してみます。」
と言って、スワルトさんが先端に意識を集中すると、動かしていないのに、だんだんRujiが動き始めるのです。実際にやってみると、動かそうとしないで、先端に集中すると、動いていない自分の身体にも意識が集中します。そして、微かに動いてしまったり、微かに傾いている自分の身体にも意識が集中し、そうやって意識しているうちに、微かに動き始める。動き始めたものに対して、抗わずに委ねているうちに、そこから自然に動きの微かな流れが生まれてくる。その流れに抗わず、無理に増幅させようともしなければ、いつの間にか動きが生まれてきて、そして、徐々に拡大されていくのです。
 佐久間新さんが水の入ったペットボトルを微かに揺らしたりするワークショップをしているのを思い出しました。きっと、佐久間さんもベン・スハルトさんの精神を継承している舞踊家なので、どこか通底するものが共通しているように思います。と同時に、イギリスのBob Lockwoodが傾倒しているアメリカの即興演劇家のScot Kelmanにも、通じるものがあるような気がしました。イギリスのKelman Groupと佐久間新さんのコラボレートも、またセッティングしたいなぁ、と思いました。
 ワークショップの最後に、スボウォさんが、
「今日やった動きと、普段、即興する時と何が違うと思いますか?」
と問いかけてきました。スボウォさんによれば、Rujiの方法で即興すれば、考えないから、疲れないとのこと。2時間考えながら即興をすれば、考えることに疲れるけれど、こういう即興ならば、考えないから何時間やっても疲れないんだ、とのこと。

 夜は、文化会館(タマンブダヤ)でクトゥプラ(大衆演劇)の公演があるので、見に行きました。天井からマイクを何本もぶら下げて、芝居の声をPAする方法は、こちら流。あれを舞台美術の人が気にせずOKとできるのが、インドネシア。途中、観客から、「声が小さいぞー」と野次が飛び、それに演者も受け答え、ドッカンドッカンと笑いが起こる。野次がいっぱい入るところが凄いです。意図しなくっても観客参加型の演劇です。音楽は基本的にガムランでやっていますが、時にシンセやドラムの打ち込みポップスとガムランの融合するチャンプルサリ様式で、演歌のデュエットみたいに男女が歌うシーンなどもあったり、客席にいるおじさんが舞台に引き上げられて、またまたドッカンドッカン笑いをとるシーンなどなどもあり。言葉がジャワ語なので、お話は分かりませんが、会場が大爆笑していると、こちらもつられて笑ってしまいます。あと、この劇場で2008年にガムランシアター「桃太郎」を上演したのですが、こうやってクトゥプラなどを見たり、ジャワで色々な体験をしていると、改訂版「桃太郎」のアイディアが次々に沸いてきます。日本のガムランとして、マルガサリと共同創作した5幕のガムラン舞踊劇に、ジャワ的なエッセンスを色々注入し、さらに、もっと日本的なエッセンスも注入して、「桃太郎」を改訂させていきたいなぁ。