野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

さあトーマス2日目


「さあトーマス」2日目。昨日はナチュラルメイクで出演だったので、今日は、かなり顔をメチャクチャにしてもらうことにした。丸と三角のメガネをかいてもらい、口紅でタラコ唇にしてもらう。おばけのQ太郎状態。昨日とは気分を入れ換えたかった。

開演前の会場に行く。トーマス、弥生ちゃんと、会場内をぐるぐる回る。トーマスは昨日のパターンを踏襲して、
「ジャニーズを探しに行こうよ。」
気分を入れ換えたつもりだったけど、昨日と似た始まり。まぁ、無理して変える必要もないから、それにのった。ジャニーズを探しながら、開演が近づいていく。客席には、神戸大学音楽療法を教えている若尾裕さんと沼田さん、三宅さんら大学院生や、音楽療法士石村真紀さんなどもいる。たんぽぽの家のスタッフもたくさん来ていた。アメリカ人のガムラン作曲家のヴィンセントさんもいる。開演後しばらくして、舞台上で、トーマスたちがトー松に空気を入れるシーンが訪れた。観客と中途半端な距離感が生まれそうなので、客中に入って、お客さんにも空気を入れるしぐさをしてもらう。ちょっと序盤から観客参加シーンを組み込みながら、もっと場内をかき回してみようと思った。そんなシーンが続くうちに、トーマスがお客さん100人ほどに空気入れをお願いし始める。そこで、ぼくは、佐久間くんに、空気入れの振付を頼む。100人の観客が佐久間君の振付で動くシーンは、ダイナミック。その振付に合わせて、ガムランの演奏が激しく動き始める。その後も、リプトンハウスを客席の中に移動させて、客席を分断にかかったりして、ガムランの背後にも観客が移動したり、空間を少しだけかき回せた感じ。序盤から、演奏やパフォーマンスに加わるお客さんも現れ、混沌とした感が強まる。この辺りでは、ぼくは会場の外に出て、今村花子さんがちぎっていた草を会場内に持ち込んだり、その他、何か使えそうなものを探して、外を歩き回る。佐久間君の子ども(1歳)のブナちゃんがベビーシッターの人に面倒をみてもらっている。
「乳母車つかいます?」
と聞かれて、
「いいえ、けっこうです。」
と断った。

会場に戻ると、萩原さんが、危険物を次々に言っている。なんだか、このパターンを脱却したいと思い、
「恋人に浮気がばれた!」
「おしっこもれそう!」
など、違った切り口の危険物で対抗してみたり。

いろいろあった後、観客はトーマスに誘導されて、隣の部屋に移動。このとき、ガムランの近くにいた石村真紀さんに、
ガムラン演奏する?」
と薦めたら、
「やってもいいの?」
と答えるや否や、真紀ちゃんはガムランを猛然と演奏し始めた。この後、彼女はとなりの部屋のパフォーマンスを見ずに、20分ほど演奏に没入しきっていたらしい。その光景を見た林加奈ちゃんは、てっきり知的障害の人だと思った(ほめ言葉)らしい。中川真さんは、いつまでたってもやめないので、
「そろそろ、隣の部屋に行きませんか?」
と声をかけたそうな。それくらい、没入していたという話が面白かった。

隣の部屋は、暗い照明の部屋。暗い部屋ではパニックを起こすから、絶対にここには参加しないはずの弥生ちゃんが、なぜか暗い部屋にいて、ぼくにくっついてきた。あれ?そこに、トーマスがやってきて、
「ジャニーズ探そう。」
と冒頭のイメージを引きずっている。ジャニーズは見つからない。そんな中、ぼくは弥生ちゃんに質問をして、どうしようか、と問うた。
「じゃあ、ジャニーズを探すための歌でもつくろうか?」
ということで、ぼくたちは歌を作ることにした。お客さんに歌詞を問い、歌ができあがっていく。リプトンさん、加奈ちゃんも加わり、一度、明るい部屋に出て、観客のいない中で歌ってから、暗い部屋の中で歌った。でも、楽器がうるさくて、歌が聞えない。それでも歌い、会場内を観客を掻き分けながら、歌い回った。そして、リプトンさんは、合図をおくり演奏をストップ。静寂が訪れた。その静寂に、加奈ちゃんが、ジャニーズを探す歌を叫びだした。他のメンバーも叫びだした。中途半端な叫びの合唱になりかけた。ぼくは、指揮者になって、加奈ちゃんに叫ばずに歌うように言った。加奈ちゃんが歌い始めると、みんなもつられて歌い始め、すっと、声が響き始めた。歌詞が、あちこちで響いて、ちょっと時間がねじれる気配があった。

そんな感じで、響きながら、リプトン部屋に戻って行った。次のシーンが始まっていた。ぼくはリプトンハウスを出発させようと提案した。
「スローモーションで、ゆっくり会場の外に出しましょう。」
リプトンハウスはゆっくり動き出す。佐久間君たちは、静かな舞踊を続けている。この様子を、小島君は出棺のようだと言った。暗い音楽、暗い雰囲気で、リプトンハウスが出て行く。今まであり得なかった展開。そうして、みんなでリプトンハウスを押しながら、野外のパレード。そして、そのまま紅茶を振舞う。いつ始まったのか、いつ終わったのか、分からぬまま、非日常がいつの間にか日常になって終わった。

奇跡が起きたのか?いや、何か特別なことではなかったように思った。昨日は昨日、今日は今日。一つの即興の展開。また、次は次だろう。これで終わったわけでもない。はじめの一歩を踏み出したわけだ。充実感もありつつ、たくさんの宿題を抱えて、みんなが帰って行く。次の一歩が楽しみになった。