野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

タコになりたい


朝ご飯を食べながら、幸弘さんと話す。
プラトンソクラテスなんかは、即興的な対話と言っても、あらかじめ話の筋道を考えているような節もあるけど、それを考えると、釈迦って本当に即興的だよね。ただ行ったところで出くわした状況で、その場で考えて、その場で色んなことを言ってるから、仏典って数限りなくできちゃうんだよね。」
プラトンソクラテスと釈迦は、ほぼ同時期だけど、釈迦の方が即興的だとのこと。

今日は、マヒドン大学のランチタイムコンサートに出演する。先週はアノタイに車で送ってもらったし、この前はタクシーで行ったが、今日は市バスを乗り継いで行ってみることにした。別にタクシー代170バーツ(500円)がバス代2人分計60バーツ(170円)に節約したいわけではなく、ちょっとタクシーに飽きたし、普通の市民生活を体験したいから。何にしても、見知らぬ土地の市バスは、どこで降りたらいいか、ドキドキするが、うまく降りられた。

早めに着いたので、キャンパス内のタイハウスで昼寝。タイの伝統的な家は、風通しもよく、うまく日陰になっていて、本当に心地よく昼寝ができる。

それから、4階の407スタジオに行くと、ぼく用に衣装を用意していてくれた。燕尾服に蝶ネクタイ。それに着替えると、ズボンがやたらに短くって、どうみてもコミカル。2台ピアノがあったので、一人で2台弾けるように2台ピアノを背中合わせにセッティング。これで、客席を見ながら蟹のようなスタイルで、右手で下手側のピアノ、左手で上手側のピアノを同時に弾ける。これに、後ろにドラムセットも組んで、3方向に楽器(右にピアノ、後ろにドラム、左にピアノ)を組んで、すっかりご機嫌。

即興コンサートは、やはり舞踏ダンサーが面白くないのが、残念。ぼくは、2台ピアノを一人で演奏しながら、まあ、そこそこ楽しいのだが、ダンサーのパフォーマンスに苛立つ。それで、我慢できなくなって、客席に入っていって、お客さんに鍵ハモを弾いてもらったりしていたら、舞踏ダンサーも客席に入ってきて、お客さんと関わり始めた。ここで、少し舞踏ダンサーたちの態度が、変わった。演じなければ、という呪縛から少し解放された感じ。

それから、客席の椅子の上に舞踏ダンサーを連れて行ったりして、空間を少しいじった後、ぼくはピアノ2台とドラムセットと鍵ハモを同時に演奏する、という無茶なパフォーマンスをやった。手が2本と足が2本しかないから、あと4本くらい足が足りない感じ。タコになりたい!足りないから、必死になって、こっちのピアノ、あっちのペダル、この鍵盤、あっち向いて、こっち振り返って、と回転しながら演奏する。必死になって演奏するのは、いい。舞踏ダンサーは、ここまで自分の身体の限界に挑戦しているか、というと、そこまでやっていないな、と思いながら、演奏しているうちに、これ以外に、声も出しながら演奏した。一人5役に挑戦という感じ。

この声に刺激を受けてか、カゲがお経みたいに叫び出した。こんなところから、程なく即興公演は終わった。学生たちは、拍手喝采、大喜び。タイ人の喜び様は、やっぱりスゴイ。

その後、マヒドン大学の作曲の先生3人衆のスコアを見せてもらったり、曲を聞かせてもらったり、鍵ハモの音域を教えて、もしよければ、鍵ハモアンサンブルの曲を書いて送ってね、とお願いする。この作曲3人衆は、来年8月には愛知万博に来て、タイ民族楽器のための新作が上演されるらしい。
「来年には、マヒドン大学で、タイで初の若い作曲家のための作曲コンクールを実施するんだよ。ぼくらが審査員になって、マヒドン大学のオーケストラが演奏するんだ。応募されてきた曲を、うちの学生オケが演奏できるとは思わないけど、それでもやっちゃおうと思うんだ。」
という彼らは、やっぱりなんだかんだ高度成長期ならではの元気の良さやエネルギーがあって、いい感じだと思った。

アナンともお別れ、次はインドネシアでね。