野村誠の作曲日記

作曲家の日記です。ちなみに、野村誠のホームページは、こちらhttp://www.makotonomura.net/

熱タイ音楽隊(バンコク)1日目

Museum Siamでのコンサート。千住だじゃれ音楽祭のメンバーによる「熱タイ音楽隊」とのバンコクツアー1日目。メンバーは、以下の10人。プロの音楽家とアマチュアの混成チーム。和楽器も西洋楽器も創作楽器も混ざった混成チーム。「千住だじゃれ音楽祭」という企画で、ゆるやかに繋がり、即興と遊び心で音楽をシェアする音楽コミュニティ。一つの楽団が海外ツアーするというよりは、このゆるやかに音楽をシェアする繋がり自体を海外に派遣する、という点が、非常に新しい。

野村誠(鍵ハモ/瓦フォン)
小川実加子(小鼓)
松澤佑紗(箏)
小日山拓也(自作楽器ほか)
伊原修太郎(声)
新倉壮朗(パーカッション)
胡舟ヒフミ(鍵ハモ)
能見ゆう子(ダラブッカ)
三木悠平(ギター)
石橋鼓太郎(チェロ)

朝食を食べながら、撮影スタッフの映画監督の甲斐田祐輔さんと撮影の方針など話す。ホテルから、車で移動。博物館着。古琴の奏者チャッチョンと再会。仲間のフルート奏者でマヒドン大学講師のポンさん、ケーン(タイの笙)奏者で、タイ東北部の音楽を研究している大学院生で、大学の講師でもあるトンさんもいる。ライブ会場に案内されるが、会場の音響がデッドで、空間的にも閉塞感があるので、「ここ、面白くない」と野村さん、いきなり「場所変えたい」と言い出し、チュラロンコン大学博士課程で作曲勉強中で、東京藝大で作曲学び日本語堪能のクックさんが、大慌てで通訳してくれる。野村さん、博物館の館内を歩き、階段のところが良いと言い出す。確かに、よく響くし、視覚的にも面白い。ここで、13人の奏者の場所をセッティングを決めていき、お互いに音が聴き合えるかを、いろいろ試行錯誤していく。古琴と箏のデュオとか、フルートとコントラバスフルートのデュオ、ケーンと鍵ハモのデュオなど、色々。面白いのです。良いリハーサルができました。そして、最後に、「ケロリン唱」もやってみる。タイ人3人にも加わってもらって!「ケロリン唱」をタイ人とやれるなんて!

昼食後、チャッチョンの仲間さらに増えて、ベトナム/タイの木琴をやる人、シラパコーン大学の大学院で民族音楽学を学びストリートミュージックを研究するウクレレ奏者のビフォー、そして、ヴァイオリン奏者も加わる。「ケロリン唱」から始まる即興演奏と、さらに、「すっぽんぽん体操」、そして、「すっぽんぽん」のリズムに基づく即興演奏もする。完成した作品を海外に輸出するのではなく、お互いのアイディアをシェアしながら、一緒に音楽を作り上げる試みが、このように実現するのは大きな喜び。国際交流基金の市民の草の根交流の枠組で採択されたプロジェクトだが、こんな形の草の根交流は、今までなかった形のように思う。

その後、アノタイの「子どもオペラ」のリハーサル会場へ。ユースオーケストラ、さらに音楽劇をする子どもたちが、最終リハーサル状態。明日が本番。これに、我々が加わる余地があるのか、甚だ疑問だが、それでも、全員が楽器を持参でやる気を見せて、リハーサル会場に遅れて到着。

指揮者のダムリー先生も、作曲家のアノタイも、リハーサルの進行でいっぱいいっぱい。熱タイ音楽隊の面々も、とても演奏で入る余地もないので、演奏できずに、ただ見学している。時間をかけて作り込んできたものに、土足で踏み入るようなことはしたくない。敬意を表したい。そういう気持ちはある。しかし、せっかく一緒にやりたいと招待されているのだから、何もしないのも礼儀に反する。しかし、これだけ決まっていては、うまく入れない。ぶち壊しそうだ。でも、今日は本番ではない。今日だったら、加わってもいいし、明日の本番は参加しなくてもいいから、今だけ、この一緒に時間を楽しみたい。そう思って、ぼくは、メンバーに指揮をし、どんどん参加を促す。うまくいくところ、いかないところ、もちろんある。初対面の戸惑いもある。けれども、リハーサルにライブ感が生まれる。ちょっと、ぎこちなくもあり、スリリングでもあり、緊張感が、だんだん笑顔になっていく。練習が終わっても、演奏しながら、踊ったり、子どもたちと少しだけ交わったりする。

「明日は、参加しないでみるから」とアノタイに言うと、「是非、参加して欲しい。客席で楽器を持っていて、くれないか!観客が時に手拍子で舞台にエールを送るように、客席で観客参加で、楽器をやるんだ。」と意外な提案をしてくる。明日は、オペラの本番に、客席に潜むゲリラ演奏家として、登場することになる。凄い展開に、驚くばかり。

タイスキを食べて、南国フルーツを購入の後、ホテルに戻り、「世界の庄内音楽ワークショップ」のための作曲作業を1時間ほどして、就寝。